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相続人と連絡が取れないと相続手続きは進められない?
相続手続きでは、遺産分割協議や相続登記、預貯金の解約など、多くの場面で相続人全員の協力が必要になります。
そのため、
- 兄弟の一人と何年も連絡を取っていない
- 遺産分割協議書を送っても返事がない
- 住所すら分からない
といった状況になると、「もう相続手続きは進められないのでは……」と不安になる方も少なくありません。
しかし、相続人と連絡が取れないからといって、必ずしも手続きが止まってしまうわけではありません。
まずは、なぜ連絡が取れないのかを整理し、それぞれの状況に応じた対応を検討することが大切です。
相続人の確認や財産調査など、相続手続き全体の順番については、相続手続きは何から始める?死亡後にやること一覧も参考にしてください。
まずは「連絡が取れない理由」を確認しよう
「相続人と連絡が取れない」といっても、その理由はさまざまです。
状況によって対応方法が異なるため、まずはどのケースに当てはまるか確認しましょう。
返事をしてくれない
住所や電話番号は分かっているものの、電話に出ない、手紙やLINEの返事がないというケースです。
相続人同士の関係が悪かったり、「面倒だから後回しにしている」という理由で返事が来なかったりすることも少なくありません。
住所が分からない
長年連絡を取っておらず、現在どこに住んでいるのか分からないケースです。
このような場合でも、戸籍や戸籍の附票などを利用して住所を調査できることがあります。
海外に住んでいる
海外に居住している相続人がいる場合は、連絡自体は取れていても、日本国内の相続人とは異なる手続きが必要になることがあります。
例えば、印鑑証明書の代わりに署名証明書を利用するなど、通常とは異なる書類が必要になるケースがあります。
本当に行方が分からない
住所調査をしても所在が判明せず、長期間まったく連絡が取れないケースもあります。
このような場合は、家庭裁判所での手続きが必要になることがあります。

返事をしてくれない場合はどうする?
実務では、「住所も電話番号も分かっているけれど、返事だけがない」というケースがよくあります。
例えば、次のような場合です。
- 遺産分割協議書を送ったが、何か月も返送されない
- 「あとで連絡する」と言われたまま進展しない
- 相続の話になると電話に出なくなる
このような状況では、焦って何度も電話をしたり、感情的なやり取りをしたりすると、かえって話し合いが難しくなることがあります。
まずは手紙などで改めて意思確認を行い、相続手続きの内容や返事をしてほしい期限を、できるだけ分かりやすく伝えましょう。
遺産分割協議書を送付する場合は、取得する財産や署名・押印してもらう箇所を明確にしておくことも大切です。作成方法や記載例については、遺産分割協議書の書き方・作成方法・記載例をご覧ください。
それでも話が進まない場合には、司法書士などの専門家が間に入ることで、相手が話を聞いてくれることもあります。
当事者同士では感情が先に立ってしまう場合でも、第三者から手続きの必要性を事務的に説明することで、冷静な話し合いにつながることがあります。
ただし、司法書士は相続人同士の争いについて、一方の代理人として交渉することはできません。すでに遺産の分け方をめぐって対立している場合には、弁護士への相談が必要になることがあります。
住所が分からない場合は調査できることがある
「住所が分からないから探しようがない」と思われる方も多いですが、実際には調査できる場合があります。
例えば、次のような書類を確認します。
- 戸籍謄本
- 戸籍の附票
- 住民票
戸籍の附票には、その戸籍に在籍している間の住所履歴が記録されています。そのため、相続人の本籍が分かれば、現在の住所をたどれる可能性があります。
例えば、亡くなった方の戸籍を集める過程で、疎遠になっていた兄弟や甥・姪が相続人であることが判明する場合があります。
その人の現在の住所を知らなくても、戸籍を順番にたどり、戸籍の附票を取得することで、連絡先となる住所が判明することがあります。
相続登記で亡くなった方の戸籍をどこまで集める必要があるのかについては、相続登記の戸籍はどこまで必要?で詳しく解説しています。
司法書士は、相続登記などの依頼を受けた場合、必要な範囲でこれらの書類を代理取得できることがあります。
「住所が分からないから諦める」という前に、一度調査できるか確認することが大切です。
海外に住んでいる相続人がいる場合
相続人が海外に住んでいる場合でも、連絡が取れ、相続手続きに協力してもらえるのであれば、遺産分割協議を進めることは可能です。
ただし、海外では日本の印鑑証明書を取得できないことがあります。
その場合は、現地の日本領事館などで署名証明書を取得し、遺産分割協議書に記載された署名が本人のものであることを証明する方法があります。
居住している国や本人の国籍によって準備する書類が異なることもあるため、遺産分割協議書を海外へ発送する前に、必要書類を確認しておくことが重要です。
署名証明書や在留証明書など、海外居住者が準備する書類については、相続人が海外に住んでいる場合の相続手続きで詳しく解説しています。
家庭裁判所の手続きが必要になるケース
戸籍や戸籍の附票などを調査しても所在が分からない場合や、長期間まったく連絡が取れない場合には、家庭裁判所の手続きが必要になることがあります。
不在者財産管理人を選任する方法
代表的な方法が、不在者財産管理人の選任です。
不在者財産管理人とは、行方が分からない人の財産を管理するために、家庭裁判所が選任する人です。
不在者財産管理人が選任された場合、その管理人が行方不明の相続人に代わって遺産分割協議に参加することがあります。
ただし、不在者財産管理人が自由に遺産を処分できるわけではありません。
遺産分割協議を成立させるためには、家庭裁判所から権限外行為許可を受ける必要があります。
また、行方不明の相続人が不利になる内容では、裁判所の許可を得られない可能性があります。原則として、その相続人の法定相続分を確保した内容で遺産分割を行うことになります。
失踪宣告を検討する場合
長期間にわたり生死が分からない場合には、失踪宣告という制度が検討されることもあります。
失踪宣告が認められると、法律上は一定の時点で死亡したものとして扱われます。
ただし、単に連絡が取れないというだけで、すぐに利用できる制度ではありません。生死不明の期間など、法律上の要件を満たす必要があります。
不在者財産管理人と失踪宣告のどちらを検討すべきかは、行方不明になった時期や相続手続きの目的によって異なります。
相続分の譲渡を利用して手続きを進められる場合もある
相続人の一部と連絡が取れない場合でも、状況によっては「相続分の譲渡」という方法を利用できることがあります。
例えば、父が亡くなり、長男・長女・次男・三男の4人が相続人になったものの、三男だけと連絡が取れないケースを考えてみましょう。
法定相続分は、それぞれ4分の1です。
この場合、長女と次男が自分の相続分を長男へ譲渡すれば、連絡が取れる3人分の相続分を長男にまとめることができます。

相続分を譲渡する前
- 長男:4分の1
- 長女:4分の1
- 次男:4分の1
- 三男:4分の1(連絡が取れない)
長女・次男から長男へ相続分を譲渡した後
- 長男:4分の3
- 三男:4分の1(連絡が取れない)
もちろん、相続分の譲渡によって、連絡が取れない相続人の相続分まで取得できるわけではありません。
また、相続分の譲渡だけで、不動産を長男の単独名義にできるわけでもありません。
しかし、連絡が取れる相続人の相続分を一人に集約しておけば、共有関係をシンプルにできる場合があります。
例えば、法定相続分による相続登記を行う場合に、連絡が取れる相続人の持分をまとめることで、不動産の共有者を減らせる可能性があります。
その後、連絡が取れない相続人との問題が解決した際にも、複数人がそれぞれ対応するのではなく、相続分を集約した一人が中心となって話を進めやすくなります。
相続分の譲渡は、遺産分割協議そのものを不要にする方法ではありませんが、手続きを整理するための有効な選択肢になることがあります。
相続分の譲渡には、譲渡証明書の作成や税務上の検討が必要になる場合もあるため、実際に利用する際は司法書士や税理士などの専門家へ相談しましょう。
連絡が取れない相続人を無視して手続きを進めてはいけない
相続人と連絡が取れないからといって、その人を除外して遺産分割協議書を作成することはできません。
遺産分割協議は、原則として相続人全員が参加して行う必要があります。
一人でも相続人を除外して行った遺産分割協議は、原則として無効です。
また、連絡が取れない相続人の署名や押印を、ほかの人が代わりに行うことも当然できません。
「少しぐらいなら分からないだろう」と進めてしまうと、その後に相続人本人が現れたとき、大きなトラブルになる可能性があります。
相続人が見つからない場合でも、住所調査や家庭裁判所の手続きを利用し、法律に沿った方法で進める必要があります。
預貯金の相続手続きも相続人全員の協力が必要になる
連絡が取れない相続人がいると、不動産の相続登記だけでなく、銀行口座の解約や払戻しも進めにくくなります。
銀行では、相続人全員の署名・押印がある相続届や遺産分割協議書の提出を求められることがあります。
連絡が取れない相続人を除外して、残りの相続人だけで預金を分けることはできません。
口座凍結後の手続きや必要書類、預貯金の仮払い制度については、亡くなった人の銀行口座の相続手続きで詳しく解説しています。
相続登記の期限にも注意しよう
相続人と連絡が取れず、遺産分割協議が進まない間も、相続登記の期限には注意が必要です。
相続登記は、原則として不動産を相続したことを知った日から3年以内に申請する必要があります。
遺産分割協議がまとまらない場合でも、法定相続分による相続登記や、相続人申告登記を検討できることがあります。
「話し合いがまとまっていないから、何もしなくてよい」というわけではありません。
相続登記義務化の対象や期限、過去に発生した相続の取り扱いについては、相続登記の義務化!過去の相続も対象?をご確認ください。
期限が近づいている場合は、まず義務を果たすためにどのような登記を行うべきか、早めに確認しましょう。
相続登記を放置すると相続人がさらに増えることも
相続人と連絡が取れないからといって、そのまま何年も手続きを放置するのはおすすめできません。
手続きをしない間に別の相続人が亡くなると、その方の配偶者や子どもが新たな相続人となることがあります。
その結果、当初は数人だった相続人が、時間の経過によって十数人に増えるケースもあります。
相続人が増えるほど、連絡先の調査や遺産分割協議書への署名・押印も難しくなります。
相続登記を放置することで生じる問題については、相続登記をしないとどうなる?放置するリスクで詳しく解説しています。
司法書士へ相談するメリット
相続人と連絡が取れない場合は、「何から始めればよいのか分からない」という状態になりがちです。
実際には、次のように状況によって進め方が異なります。
- 戸籍や戸籍の附票を調査するケース
- 手紙を送り、相続手続きへの協力をお願いするケース
- 相続分の譲渡を利用して、ほかの相続人の持分をまとめるケース
- 法定相続分による相続登記を行うケース
- 不在者財産管理人など、家庭裁判所の手続きを検討するケース
- 相続人同士の対立があり、弁護士への相談が必要なケース
司法書士へ相談すれば、戸籍の収集や住所調査、相続登記、相続分譲渡に必要な書類の作成などをまとめて依頼できる場合があります。
相続登記に必要となる戸籍、住民票、印鑑証明書などの書類については、相続登記の必要書類一覧も参考にしてください。
早い段階で現在の状況を整理することで、遠回りをせず、現実的な手続き方法を選びやすくなります。
まとめ
相続人と連絡が取れない場合でも、すぐに「相続手続きはできない」と諦める必要はありません。
まずは、返事をしてくれないのか、住所が分からないのか、海外に住んでいるのか、それとも本当に所在が不明なのかを整理することが大切です。
住所が分からない場合には、戸籍や戸籍の附票から調査できる可能性があります。
所在が分からない場合には、不在者財産管理人など、家庭裁判所の手続きによって遺産分割を進められることもあります。
また、一部の相続人と連絡が取れない場合には、相続分の譲渡を利用し、連絡が取れる相続人の相続分を一人にまとめる方法も検討できます。
ただし、連絡が取れない相続人を勝手に除外して遺産分割協議を行うことはできません。
相続人との連絡が取れず、手続きが進まない場合は、一人で悩まず、司法書士へ相談しながら状況に合った方法を検討しましょう。



