相続人に認知症の人がいると何が問題になるの?

遺産分割協議では、相続人全員が協議の内容を理解し、自分の意思で合意することが必要です。

そのため、判断能力が十分でない相続人がいる場合には、遺産分割協議を成立させることができません。

その結果、相続登記ができない、預貯金の解約が進まない、不動産の売却ができない、といった問題が生じることがあります。

相続人の中に認知症の方がいる場合に重要なのは、「認知症かどうか」ではなく、「遺産分割協議を理解して判断できるかどうか」です。

相続人に認知症の方がいる場合の手続きの流れ
相続人に認知症の方がいる場合の手続きの流れ

認知症だからといって遺産分割協議ができないわけではありません

ここで多くの方が誤解されています。

重要なのは「認知症」という病名ではなく、遺産分割協議を理解し、自分の意思で判断できる能力があるかどうかです。

例えば、初期の認知症や軽度認知障害の場合でも、遺産分割協議の内容を十分理解し、自分の意思で判断できる状態であれば、遺産分割協議を行うことができる場合があります。

一方で、認知症という診断を受けていなくても、判断能力が著しく低下している場合には、遺産分割協議を行うことはできません。

つまり、相続手続きでは「認知症かどうか」ではなく、判断能力があるかどうかがポイントになります。

判断能力はどのように判断される?

「判断能力があるかどうか」は、一つの基準だけで決まるものではありません。

実際には、次のような事情を総合的に考慮して判断されます。

  • 医師の診断内容や意見
  • 長谷川式認知症スケール(HDS-R)
  • MMSEなどの認知機能検査
  • 日常生活の状況
  • 本人との面談内容

なお、長谷川式テストなどの点数だけで、遺産分割協議ができる・できないが決まるわけではありません。

最終的には、ご本人が遺産分割協議の内容を理解し、自分の意思で判断できる状態かどうかを個別に判断することになります。

「返事ができる」ことと「判断能力がある」ことは別です

実務では、ご家族から次のようなお話を伺うことがあります。

「本人に『この内容でいい?』と聞いたら、『いいよ』と言っていました。」

しかし、このような受け答えだけで、遺産分割協議に必要な判断能力があるとは判断できません。

判断能力が低下している方の中には、質問の内容を十分理解できていなくても、相手に合わせて「はい」「いいですよ」と返答されることがあります。

そのため、「返事をしたから大丈夫」という考え方は、大きな誤解です。

重要なのは、次のような点です。

  • 相続人が誰なのか理解しているか
  • 相続財産を理解しているか
  • 誰がどの財産を取得するのか理解しているか
  • その内容を自分の言葉で説明できるか

遺産分割協議の内容を理解し、自分の意思で判断できることが、判断能力の重要なポイントになります。

司法書士はどのような点を確認するの?

司法書士も、相続登記をご依頼いただいた際には、ご本人と直接お話ししながら判断能力を確認することがあります。

例えば、次のような質問を行うことがあります。

  • 今日はどのような手続きで来られましたか?
  • 今回、どなたがお亡くなりになりましたか?
  • ご自宅はどなたが相続される予定ですか?
  • その内容でよいと考えられた理由を教えていただけますか?

このような質問に対して、ご本人が内容を理解したうえで、自分の言葉で説明できるかを確認します。

もちろん、司法書士だけで判断するわけではなく、必要に応じて医師の診断内容なども踏まえながら総合的に判断します。

判断能力がない場合は成年後見制度を利用する

判断能力が十分でない場合には、成年後見制度を利用することになります。

一般的な流れは次のとおりです。

  1. 家庭裁判所へ成年後見開始の申立て
  2. 成年後見人の選任
  3. 成年後見人が遺産分割協議へ参加
  4. 相続登記や預貯金の手続きを進める

成年後見人が選任されるまでには、通常2〜3か月程度かかることが多く、相続手続きにも影響します。

また、一度成年後見人が選任されると、相続手続きが終われば自動的に終了する制度ではありません。

その後も原則として成年後見制度は継続するため、申立てを行う前には制度全体を理解しておくことが大切です。

早めの相談がスムーズな相続につながります

「少し物忘れはあるけれど、成年後見制度が必要なのだろうか」

「遺産分割協議はできる状態なのだろうか」

このような判断は、ご家族だけで行うことは難しいケースが少なくありません。

判断能力が問題となる相続では、手続きを進めてからやり直しになると、大きな時間と費用がかかることもあります。

判断に迷われる場合は、早い段階で司法書士へ相談し、適切な手続きの進め方を確認することをおすすめします。