自分でやる!相続による不動産の名義変更登記の手順/全解説
相続による不動産の名義変更登記を自分でやる!という方のために、相続登記の手順を司法書士が解説します。物件調査から、相続人調査、遺産分割協議書の作成、登記申請まで、順を追って、分かりやすくご案内します。
目次
相続登記は、時間と手間がかかる!手順の概要
一般的な手順(自分で登記する場合)
1 物件調査 (法務局にて調査)
2 相続関係の調査 (市役所等で調査)
3 必要書類の収集 (市役所・法務局等で調査)
4 遺産分割協議書の作成
5 署名押印 (相続人全員に実印を押してもらう)
6 管轄法務局へ登記申請 (法務局へ提出)
自分で相続登記を行うには、時間と手間がかかります。途中で分からなくなったり、面倒くさくなって、結局、司法書士事務所に依頼するというお客様の多数おられます。
手続に着手する前に、自分で最後まで出来るのか、よく確認するようにしましょう。
相続対象物件の調査
相続による不動産名義変更登記を自分でする場合、まず行うのは「相続による名義変更の対象になる物件(家や土地など)の調査」です。
相続によって不動産の名義変更をしようとしても、その不動産の情報が分からなければ手続きのしようがありません。加えて、不動産名義変更の登記で提出する登記申請書には不動産情報なども記載しなければならないのです。相続による不動産名義変更登記をする前提として、まずは名義変更する物件の調査・情報確認をしておきましょう。
具体的には、不動産名義変更する物件について、以下の3つのことをします。
1.相続により名義変更する不動産の登記事項証明書を取得して確認する
2.相続により名義変更する不動産を特定する
3.名義変更する不動産の周辺の権利状況(前面道路の持ち分)などについても確認する
登記事項証明書の取得
相続によって被相続人(亡くなった人)から相続人に不動産の名義を変更する場合は、まずは不動産の調査として登記事項証明書を取得します。
登記事項証明書とは不動産の権利関係などが集約された、いわば不動産の履歴書・パーソナルデータの集大成のような書類です。登記事項証明書を確認することで、不動産の名義が誰になっているかなどを確認できます。
この作業をしておかないと、「被相続人の所有不動産だと思っていたのに、別の人の不動産だった」などのミスが起きる可能性があるのです。
たとえば被相続人が借家などに住んでいた場合はどうでしょう。相続人が借家を被相続人の不動産だと勘違いしている可能性があります。不動産の権利関係などを調査するためにも、まずは登記事項証明書を取得しましょう。
名義変更したい不動産の登記事項証明書は法務局の窓口で取得できます。取得方法は「窓口で取得」「ネットで取得」「郵送で取得」の3つの方法があります。
窓口で取得 / 法務局の窓口で申請書を提出して取得する方法
ネットで取得 / ネットから申請して法務局から郵送してもらう方法
郵送で取得 / 申請書などを郵送して法務局から返送してもらう方法
窓口で取得の手続きをすると、基本的にその場で登記事項証明書を受け取って終了となります。ネットの場合はネットバンキングなどを利用すれば、自宅のパソコンですべて手続きできるため、自宅外に足を運ぶ必要はありません。
相続対象物件の特定
被相続人の所有している不動産の登記事項証明書を取得したら、相続による名義変更登記が必要な対象物件を確認します。
すでにお話ししたように、一見すると被相続人の不動産のように見えて別の人の不動産(借りていたなど)というケースもあるため、被相続人のものかどうか、土地や家、収益物件などをそれぞれ特定するわけです。
不動産名義変更登記の必要な不動産を、登記事項証明書を確認しながら仕分けするという感じになります。
前面道路の持分など注意
被相続人の不動産に一戸建てがある場合は前面道路にも注意が必要です。一戸建ての側にある道路などは周辺住民がそれぞれ持分により共有しているケースが少なくありません。
たとえば一戸建てが3軒あり、それぞれABCが住んでいました。Aが亡くなりAの相続人がA所有の一戸建てを相続するとします。
3軒の家の前面にある道路を一戸建て3軒の所有者であるABCが3分の1ずつの持分で共有していました。住民が私道を共有することで、それぞれの家が私道の所有権を主張して道路封鎖などの嫌がらせをしないようにするため、このように共有するわけです。
一戸建てとその土地を相続による不動産名義変更登記をしても、私道の分を忘れてしまうケースが後を絶ちません。「道路に共有や持分があると思わなかった」などの理由から、相続時に見逃してしまうケースがあります。
一戸建ての側に私道がある場合や公図や名寄帳、登記済証(登記識別情報)、納税通知書など、手がかりになりそうなものから私道の権利関係について確認しておく必要があります。
私道の持分については複雑で探す際も漏れが発生する可能性があるため、不動産名義変更を自分でするときは、念には念を入れて確認すべきです。分からないことがあれば司法書士などの専門家にアドバイスを求めた方が無難です。
相続人調査
不動産名義変更を自分でする場合、物件の調査の次に行うべきことは「相続人の調査」です。
相続による不動産名義変更とは被相続人名義の不動産を相続人名義に書き換えることですから、書き換えるべき相続人が分からないと手続きしようがありません。相続による不動産名義変更を自分でする場合も、相続人が誰になるのか調査する必要があります。
相続人を調査する基本的な流れは、戸籍の取得などです。相続関係図の作成や遺言書探しなども必要になります。
戸籍収集の手順
相続人は戸籍から調査します。被相続人の出生から死亡時までの戸籍を自治体の窓口で取得し、被相続人の家族関係や親族関係を追うという流れで確認することが必要です。
たとえばAが1960年に出生し、2020年に亡くなったとします。このAさんが生まれた1960年の生まれた日から2020年の亡くなる日までの連続した戸籍が必要なのです。ひとつの自治体から取得できない場合も少なくないため、Aさんの一生を追うようなかたちで少しずつ戸籍を集めなければいけません。
戸籍はAさんが亡くなったときの戸籍から前へ遡るかたちで取得します。連続しているかどうかは戸籍の日付や記載などが続いているかどうかで判断します。日付などに穴があれば抜けている部分の戸籍をさらに収集するという流れです。
戸籍は本籍地の自治体窓口から取得できます。戸籍謄本は1通450円で、除籍謄本などは1通750円になります。本籍地が遠方の場合は手数料分の定額小為替や請求書、封筒、本人確認書類のコピーなどを同封して自治体に送付すれば郵便で取得することも可能です。
相続関係説明図の作成
相続関係説明図とは家系図のことです。被相続人と相続人を中心にした家系図のようなものだと考えれば分かりやすいことでしょう。相続関係説明図(相続手続きなどで使う家系図)は集めた戸籍を参考に作成します。
相続関係説明図を作成することで相続人を「家系図」というかたちで確認可能です。
相続関係説明図は相続関係の手続きに使うこともできます。相続登記のときに相続関係説明図を提出すれば戸籍類の原本還付を受けることが可能です。
また、相続関係説明図を提出して法務局の登記官に認証を受けて写しを交付してもらえば、法定相続情報一覧図としていろいろな相続手続きに活用できます。
注意、遺言がないか確認
遺言書があれば遺産分割は基本的に遺言書で指定された通りに行い、相続手続きにも遺言書を使います。相続人の調査を行うと同時に被相続人の遺言書がないか探しておきましょう。
遺言書には自筆証書遺言や秘密証書遺言、公正証書遺言などがあります。自筆証書遺言は自宅に保管されているケースもありますが、法務局が保管(自筆証書遺言書保管制度)していることもあるため注意してください。
公正証書遺言や秘密証書遺言は公証役場が管理しています。公証役場に問い合わせてみてください。
遺言書の形式によっては家庭裁判所の検認が必要です。遺言書を見つけたら開封せず、検認が必要なタイプの遺言書か確認してください。
家庭裁判所の手続き以外で開封してしまうと処罰の対象になる可能性があるため、分からない場合は開封せず、専門家に確認するか家庭裁判所に持ち込むなど、慎重に扱ってください。
相続登記の必要書類の収集
相続による不動産名義変更を自分でする場合は登記申請の際に添付する書類なども集めなければいけません。相続による不動産名義変更を自分でするときは、以下のような書類を集めます。
・物件の評価証明書
・被相続人の住民票除票
・相続人の戸籍謄本、住民票、印鑑証明書 など
物件の評価証明書とは「固定資産税の納税通知書に付属している課税明細書」や「固定資産税評価証明書」のことです。これらの書類は相続による不動産名義変更登記の際に納める登録免許税の計算に使います。
他には相続人の戸籍や住民票、被相続人の住民票除票などが必要です。相続による不動産名義変更なのですから、被相続人と相続人が確かに相続関係にあるのか、真実に相続人であるのか、などを添付書類で証明しなければいけません。住民票で相続人の住所なども確認します。
住民票などは自治体の窓口で必要な分を取得しておきましょう。
遺産分割協議と遺産分割協議書の作成
遺言書がなく被相続人による遺産分割の指定がない場合は、基本的に遺産分割協議によって遺産分割を決めます。遺産分割協議とは「相続人による遺産分けの話し合い」です。
調査により特定した相続人で遺産分割協議をする
遺産分割協議では相続人の都合に合わせて柔軟に遺産を分けることが可能です。
たとえば長男と次男が相続人の場合は、長男が実家の家と土地を相続し、次男が預金を相続するなど、法定相続分(民法900条)にとらわれず自由に話し合いで遺産分割して差し支えありません。最終的にすべての相続人が遺産分割に納得・同意していれば、自由に遺産を分けていいのです。
なお、遺産分割協議という言葉から難しく格式ばった話し合いを想像するかもしれませんが、会議室のようなところに相続人全員が集まって話し合う必要もありません。最終的に遺産分割について相続人全員の同意があればいいため、メールや電話などで遺産分割協議をすることも可能です。
遺産分割協議は相続人全員で行わないと無効です。相続人が欠けていると無効ということを考えれば、相続人の調査がどれほど重要な作業か分かるはずです。遺産分割協議をする前に、あらためて相続人の漏れがないか確認しておいてください。
遺産分割協議がまとまったら遺産分割協議書にまとめる
遺産分割協議で決めた内容を必ず遺産分割協議書にまとめなければならないというルールはありません。
ただ、遺産分割協議で遺産分割について決めた場合は、遺産分割協議書に分割内容についてまとめるのが一般的です。遺産分割協議書にまとめておかないと、後から遺産分割についての証拠がないためにトラブルになる可能性がある他、相続登記の窓口がどのような遺産分割をしたのか理解できないからです。
遺産分割協議書には縦書きや横書きといったルールはありません。ただ、遺産分割協議の内容については漏れなく記載してください。トラブルを防ぐためにも、遺産の内容や分割については具体的に記載しておきましょう。
相続手続きに必要な署名押印をもらう
遺産分割協議書を作成したら相続人全員の記名押印を要します。押印は実印なので注意してください。
不動産名義変更を自分でする場合は登記の申請書に遺産分割協議書を添付します。記名押印に漏れがないか、よく確認しておいてください。
なお、遺産分割協議を行わない場合は、不動産名義変更を自分でするときに遺産分割協議書の添付は必要ありません。
たとえば被相続人が遺言書を残していたとします。遺言書の遺産分割に従って遺産分割し、不動産名義変更を自分ですることになりました。この場合は遺産分割について書かれているのは遺言書ですし、遺言書に従うわけですから遺産分割協議をしていません。よって、遺産分割協議書は不動産名義変更を自分でするときの添付書類にはならないのです。
相続ケースによって遺産分割協議をする場合としない場合があり、遺言書の有無なども変わってきます。ケースによって添付書類が変わってきますので、分からない場合は法務局や司法書士などの専門家に確認を取ってください。
相続登記申請書の作成と管轄法務局への提出
物件の調査や相続人の調査を経て、不動産名義変更を自分でする場合の添付書類なども集め終えたら、次は相続登記の申請書を作成します。
相続登記の申請書は法務局のホームページからテンプレートをダウンロード可能です。遺言書を使うケースや遺産分割をするケースなど、ケースごとにテンプレートがあります。
ファイル形式のWordやPDFなどがありますので、相続ケースに合わせて使いやすいファイル形式を選んで使うといいでしょう。
相続による不動産名義変更登記の申請書を記載したら、後は管轄の法務局の窓口に提出するだけです。管轄については法務局のホームページから確認できます。
法務局での作業がおわると、登記識別情報通知が発行される!手続終了
登記の申請書や添付書類が受理されると、法務局で不動産の名義書き換えが行われます。名義書き換えが完了すると登記識別情報通知が発行されるという流れです。登記識別情報が発行されれば、相続による不動産の名義変更も無事に完了になります。
不動産名義変更を自分でする場合に必要な期間
不動産名義変更を自分でする場合に必要な期間は、登記申請後の名義書き換えだけで1~2週間ほどです。法務局の混雑状況によって完了までの期間が変わりますので注意してください。法務局のホームページや窓口で完了までの目安期間を確認することも可能です。
不動産名義変更を自分でする場合にはミスによって修正なども発生する可能性があるため、目安期間よりさらに時間がかかることも覚悟しておきましょう。
なお、不動産名義変更を自分でする場合は、登記申請書類を提出してから早くて1~2週間が手続き的な目安ですが、準備期間を合わせるとさらに長くなります。戸籍の取得や相続人の特定などに時間がかかると、月単位、場合によっては年単位になる可能性もあるのです。
基本的に司法書士が登記するより時間がかかるため、余裕を持って手続きや準備に着手することが重要になります。