休眠担保権は弁済供託で抹消できる?

古い不動産の登記簿を確認すると、何十年も前に設定された抵当権や根抵当権が、そのまま残っていることがあります。

通常であれば、金融機関や債権者から解除証書や委任状などの抹消書類を受け取り、抵当権抹消登記を行います。

一般的な住宅ローン完済後の抹消手続きについては、抵当権抹消登記とは何かを解説した記事をご覧ください。

しかし、次のような事情がある場合には、通常の方法で抵当権を抹消できないことがあります。

  • 金融機関がすでに解散している
  • 債権者が死亡している
  • 相続人の所在が分からない
  • 抹消書類を取得できない

このような場合に利用を検討する制度が、弁済供託です。

この記事では、弁済供託を利用できるケースや手続きの流れ、供託金額の考え方、注意点などを、司法書士の実務を交えながら分かりやすく解説します。

なお、休眠担保権全体の概要や他の解決方法については、「休眠担保権とは?分類と解決方法」の記事もあわせてご覧ください。

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弁済供託が利用できるケース

弁済供託は、単に「債権者と連絡が取れない」という理由だけで利用できる制度ではありません。

例えば、次のようなケースで利用が検討されます。

  • 金融機関が解散・清算され、承継金融機関も確認できない
  • 戸籍や住民票などを調査しても、債権者やその相続人の所在が判明しない
  • 債権者が弁済の受領を拒否している
  • その他、法律上、債権者へ弁済することができない事情がある

必要な調査を尽くしても、通常の方法では弁済できない場合に、弁済供託の利用を検討します。

例えば、昭和40年代に設定された抵当権について、住宅ローンはすでに完済しているものの、金融機関がその後解散し、現在では抹消書類を取得できないケースがあります。

また、個人がお金を貸した際に設定した抵当権では、債権者本人がすでに亡くなっており、その相続人の所在や相続関係が分からないケースも少なくありません。

このような場合に、弁済供託による解決を検討することになります。

弁済供託とは?

弁済供託とは、本来は債権者へ支払うべきお金を、直接支払えない事情がある場合に、法務局の供託所へ預ける制度です。

供託が適法に行われると、実際に債権者へ支払った場合と同じ法律上の効果が認められます。

休眠担保権では、この制度を利用することで抵当権抹消登記が可能になることがあります。

弁済供託は「支払ったことにする制度」です

ここは、弁済供託を理解するうえで最も重要なポイントです。

弁済供託は、単に書類がないから抵当権を抹消できる制度ではありません。

債権額や利息などを供託所へ預けることで、「債権者へ弁済した」と法律上取り扱われる制度です。

つまり、供託を行う以上、原則としてその金額を実際に供託しなければなりません。

供託する金額は、一般的に次のような項目を基に算定します。

  • 元金
  • 約定利息
  • 遅延損害金

休眠担保権では、登記簿上の債権額だけでは供託金額を判断できないことも少なくありません。

弁済期や利率、損害金の発生時期なども確認しながら、供託すべき金額を慎重に算定する必要があります。

すでに返済している場合は二重払いになる可能性があります

ここで注意しなければならないのが、すでに借入金を完済しているケースです。

例えば、昭和40年代に住宅ローンを返済し終えていたにもかかわらず、金融機関から抹消書類を受け取れず、そのまま数十年間抵当権だけが残ってしまったケースがあります。

本来であれば返済は終わっています。

しかし、その返済を証明する資料が残っておらず、弁済供託を利用する場合には、法律上は改めて供託金を納めることになります。

つまり、実質的には二重払いになる可能性があるということです。

弁済供託による抹消では、「供託すること」が前提となるため、実務ではまず、本当に弁済供託しか方法がないのかを慎重に検討します。

実務では少額の休眠担保権で利用されることが多い

このような理由から、弁済供託はどのような抵当権にも利用されるわけではありません。

実務上は、次のような現在ではごく少額となっている休眠担保権で利用されることが多くあります。

  • 債権額10円
  • 債権額50円
  • 債権額100円
  • 債権額数百円

昭和初期や戦前に設定された抵当権では、登記簿上の債権額が数十円から数百円ということも珍しくありません。

このような案件では、利息や損害金を加えても供託金額自体は比較的少額で済みます。

一方で、債権額が数百万円、数千万円に及ぶ抵当権について弁済供託を利用することは、供託金額の負担が非常に大きくなるため、現実的ではないケースが多いでしょう。

そのため、通常の抵当権抹消や他の法的手段で解決できないかを十分に調査したうえで、最終的な選択肢として弁済供託を検討します。

供託金額はどのように計算する?

弁済供託では、「いくら供託すればよいのか」を正確に計算することが非常に重要です。

供託金額が不足していると、弁済供託としての効力が認められず、抵当権抹消登記が認められない可能性もあります。

そのため、登記簿に記載された内容をもとに、供託すべき金額を慎重に算定する必要があります。

一般的には、次のような項目を確認します。

確認項目 確認する内容
元金 登記簿に記載された債権額
約定利息 利率と利息の計算期間
遅延損害金 損害金の利率と発生時期
弁済期 いつ返済期限が到来したか

例えば、登記簿に次のような内容が記載されていることがあります。

  • 債権額100円
  • 利息 年10%
  • 損害金 年14%

しかし、この記載だけで供託金額が決まるわけではありません。

「いつから利息が発生するのか」「いつ返済期限が到来したのか」「損害金はどの時点から計算するのか」なども確認する必要があります。

さらに、古い抵当権では、登記簿の記載方法が現在とは異なることも多く、設定当時の登記記録や契約内容を確認しながら計算を進めることもあります。

供託金額の算定は、弁済供託手続の中でも最も重要なポイントの一つです。

昭和時代の登記簿は読み解くだけでも一苦労

休眠担保権では、昭和20年代から40年代に設定された抵当権を扱うことも珍しくありません。

このような案件では、現在のコンピュータ化された登記簿だけでは十分な情報を確認できず、閉鎖登記簿を取得して調査することがあります。

閉鎖登記簿の中には、コンピュータ化以前の手書きの登記簿が保存されているものもあり、現在の登記簿とは様式も大きく異なります。

例えば、次のような記載が含まれていることがあります。

  • 毛筆に近い文字
  • 昔の漢字や略字
  • 現在では存在しない金融機関名

内容を正確に読み解くだけでも、相応の経験が必要です。

例えば、現在では存在しない信用組合や信用金庫が、その後の合併や商号変更を経て、現在の地方銀行へ承継されているケースもあります。

そのため、閉鎖登記簿を一つずつ確認しながら、次のような事項を調査していきます。

  • いつ商号変更されたのか
  • どの金融機関へ合併したのか
  • 現在の承継金融機関はどこなのか

閉鎖登記簿の調査によって承継金融機関が判明すれば、弁済供託を利用せず、通常の抵当権抹消登記で解決できるケースも少なくありません。

通常の方法で抹消できる場合に、銀行から交付される解除証書や委任状などの書類については、抵当権抹消登記の必要書類一覧で画像付きで解説しています。

債権者を調査する

弁済供託は、「債権者が見つからない」という理由だけで利用できる制度ではありません。

まずは、通常の方法で債権者へ弁済することが本当にできないのかを調査する必要があります。

債権者が金融機関の場合と個人の場合では、調査方法も異なります。

金融機関が債権者の場合

金融機関が債権者となっている場合は、現在もその金融機関が存在するかを確認します。

調査では、次のような事項を確認します。

  • 合併
  • 商号変更
  • 組織変更
  • 清算
  • 承継金融機関

特に古い金融機関では、閉鎖登記簿を取り寄せて沿革を調査することも珍しくありません。

実際には、「すでに存在しない銀行」と思われていた金融機関が、現在の地方銀行へ承継されていたというケースもあります。

このような場合には、承継金融機関から抹消書類を取得し、通常の抵当権抹消登記を行うことが可能になります。

個人が債権者の場合

個人が債権者となっている抵当権では、より慎重な調査が必要になります。

登記簿上の住所だけを見て「所在不明」と判断することはできません。

実務では、例えば次のような調査を行います。

  • 登記簿上の住所へ本人限定受取郵便を発送する
  • 市区町村で住民票を調査する
  • 住民票の除票を確認する
  • 戸籍・戸籍の附票を取得する
  • 死亡していれば相続人を調査する
  • 相続人への弁済が可能か確認する

このような調査を尽くしても、債権者や相続人の所在が判明しない場合に、初めて弁済供託が検討されます。

つまり、弁済供託は「住所が古いから利用する制度」ではなく、十分な所在調査を尽くした結果、それでも通常の弁済ができない場合に利用する制度なのです。

事例紹介|個人債権者が所在不明となっていたケース

昭和40年代、ある田に債権額100円の抵当権が設定されていました。

土地の所有者は売却を希望していましたが、抵当権が残っているため、そのままでは売却することができません。

まず、登記簿に記載された債権者の住所宛てに、本人限定受取郵便を発送し、抵当権抹消登記への協力を依頼しました。

しかし、郵便は「宛所尋ねあたりません」として返送され、債権者と連絡を取ることはできませんでした。

続いて、登記簿上の住所・氏名をもとに、市区町村へ住民票や戸籍の請求を行いました。

ところが、住民票・戸籍ともに該当がなく、債権者の所在や死亡の事実を確認することはできませんでした。

そのため、市区町村から「不在住証明書」および「不在籍証明書」を取得し、債権者の所在を確認するための調査を尽くしたことを客観的な資料として残しました。

これらの調査経過を踏まえ、土地所有者が債権額等を弁済供託し、その供託書類を添付して抵当権抹消登記を申請しました。

このように、弁済供託による抵当権抹消では、単に「債権者が見つからない」という事実だけでは足りません。

本人限定受取郵便の返送、不在住証明書、不在籍証明書などを取得し、所在調査を十分に尽くしたことを客観的な資料によって示すことが重要になります。

弁済供託による抵当権抹消の流れ

弁済供託による抵当権抹消は、通常の抵当権抹消登記よりも多くの調査や手続きが必要になります。

案件によって多少異なりますが、一般的には次のような流れで進みます。

  1. 登記簿・閉鎖登記簿などを調査する
  2. 債権者の所在調査を行う
  3. 弁済供託が利用できるか検討する
  4. 供託書を作成する
  5. 供託金を納付する
  6. 抵当権抹消登記を申請する

① 登記簿・閉鎖登記簿などを調査する

まずは現在の登記簿を確認し、債権額、利息、損害金、弁済期、債権者などを調査します。

必要に応じて閉鎖登記簿も取得し、金融機関の変遷や登記内容を確認します。

② 債権者の所在調査を行う

金融機関であれば承継金融機関を調査し、個人であれば本人限定受取郵便や戸籍・住民票などによる所在調査を行います。

この調査によって通常の抵当権抹消が可能となるケースもあります。

③ 弁済供託が利用できるか検討する

十分な調査を行っても通常の弁済ができない場合に、弁済供託による解決を検討します。

実務では、供託所や法務局へ事前相談を行いながら手続きを進めることも少なくありません。

④ 供託書を作成する

供託原因や供託金額などを整理し、供託書を作成します。

案件によっては、利息や損害金の計算も必要になります。

⑤ 供託金を納付する

供託書を提出し、供託金を納付します。

適法な弁済供託が成立すると、法律上は債権者へ弁済したのと同じ効果が生じます。

⑥ 抵当権抹消登記を申請する

供託書類などを添付し、法務局へ抵当権抹消登記を申請します。

登記が完了すると、長年残っていた休眠担保権が抹消されます。

供託書の作成は特に専門性が求められます

弁済供託では、供託書を作成して供託所へ提出します。

供託書には、次のような事項を正確に記載しなければなりません。

  • 弁済期
  • 元金
  • 約定利息
  • 遅延損害金
  • 供託原因
  • 供託金額

休眠担保権では、昭和時代に設定された抵当権を扱うことも多く、現在の登記簿だけでは必要な情報が揃わないケースがあります。

そのため、現在事項証明書や閉鎖登記簿、当時の契約内容などを確認しながら、供託金額を算定することになります。

「供託ができるかどうか」よりも、「供託すべき金額を正確に計算すること」の方が難しい案件も少なくありません。

特に古い抵当権では、現在とは異なる登記様式や利息の定めが記載されていることもあり、実務経験が求められる場面です。

弁済供託が必要かどうか分からない方へ
休眠担保権には、弁済供託以外の方法で解決できるケースもあります。まずは当事務所の
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をご確認ください。

弁済供託による抵当権抹消の費用

弁済供託を利用した休眠担保権の抹消では、次のような費用が発生します。

  • 供託金
  • 登録免許税
  • 登記事項証明書・閉鎖登記簿等の取得費用
  • 戸籍・住民票等の取得費用
  • 郵送費
  • 司法書士報酬

司法書士法人あやめ池事務所の報酬

弁済供託による休眠担保権の抹消は、75,000円から承ります。

ただし、上記の金額は司法書士報酬の目安です。供託金、登録免許税、登記簿や戸籍等の取得費用、郵送費などの実費は別途必要になります。

また、供託金額や債権者の調査範囲、閉鎖登記簿の確認が必要かどうかなどにより、司法書士報酬も異なります。

特に個人債権者の所在調査では、戸籍収集が広範囲に及んだり、多数の相続人の調査が必要になったりするケースがあります。

そのため、まずは登記簿などを確認したうえで、正式な費用をご案内します。

なお、一般的な住宅ローン完済後の抵当権抹消登記については、司法書士報酬や登録免許税が大きく異なります。通常の抹消費用については、抵当権抹消登記の費用を解説した記事をご確認ください。

弁済供託以外の方法で解決できることもあります

休眠担保権が残っているからといって、必ず弁済供託を利用するとは限りません。

例えば、次のような場合には、通常の抵当権抹消登記で解決できる可能性があります。

  • 承継金融機関が判明した
  • 債権者の相続人全員が判明した
  • 抹消書類を取得できた

また、案件によっては、次のような別の手続きが適していることもあります。

  • 不動産登記法第70条の2による抹消
  • 登記手続請求訴訟

そのため、実務では次のような順番で解決方法を検討します。

  1. 通常の抵当権抹消ができないか
  2. 弁済供託が利用できるか
  3. 不動産登記法第70条の2が利用できるか
  4. 登記手続請求訴訟が必要か

案件ごとに最適な解決方法は異なるため、最初の調査と手続きの選択が非常に重要です。

司法書士へ依頼するメリット

弁済供託による休眠担保権の抹消は、通常の抵当権抹消登記よりも専門性の高い手続きです。

実務では、次のような工程を適切な順序で進めなければなりません。

  • 登記簿・閉鎖登記簿の調査
  • 承継金融機関の確認
  • 本人限定受取郵便による所在調査
  • 戸籍・住民票の収集
  • 相続人調査
  • 供託金額の算定
  • 供託書の作成
  • 抵当権抹消登記の申請

また、「弁済供託が利用できる案件」と思っていても、調査の結果、通常の抵当権抹消で解決できることもあります。

反対に、弁済供託では対応できず、不動産登記法第70条の2や登記手続請求訴訟による解決が適しているケースもあります。

そのため、まずは案件全体を調査し、どの手続きが最も適しているかを判断することが、円滑な解決への第一歩といえるでしょう。

まとめ

弁済供託は、休眠担保権を解決するための有効な手段の一つですが、すべての案件で利用できるわけではありません。

重要なのは、「債権者と連絡が取れない」という事実だけではなく、通常の方法で弁済できないことを十分な調査によって確認することです。

また、供託金額の算定や供託書の作成には高い専門性が求められ、案件によっては弁済供託以外の方法が適している場合もあります。

休眠担保権でお困りの方は、まずは登記簿の内容を確認し、どの手続きが最適かを検討することをおすすめします。