持ち家×離婚 住宅ローン完済を条件とした所有権移転仮登記とは?メリットは?具体的な利用例は?
離婚時における財産分与は、しばしば複雑な問題を引き起こします。特に、共有名義の住宅や住宅ローンが絡む場合、どちらが住宅を所有し、ローンをどのように処理するかが争点となります。こうした状況で「所有権移転仮登記」を活用するケースがあります。
この記事では、離婚に伴い住宅ローンの完済を条件とした所有権移転仮登記について、その目的や手続き、メリット・デメリットを詳しく解説します。
条件付所有権移転仮登記について
条件付所有権移転仮登記とは?
条件付所有権移転仮登記は、一定の条件が整った後に、本登記を行うことを前提とした仮の権利保全の手続きです。
持ち家がある場合の離婚手続において、住宅ローンが残っている場合、銀行の承諾を得なければ、名義変更を行うことができません。
そこで、離婚協議のうえで、住宅ローンの完済したときに、財産分与によって所有権移転(名義変更)をするという約束をすることが多々あります。
そのような際に利用されるのが、住宅ローンの完済を条件とした、所有権移転仮登記です。
具体的な利用例
たとえば、夫名義の持ち家があるけれど、現状は住宅ローンが残っているので、名義変更が出来ない場合、当事者間で離婚協議書を作成し、「住宅ローンを完済したら、妻に名義変更する」と約束したとします。
ローンの完済までは、まだまだ期間がある・・・でも名義変更はできない・・・となると、妻側は不安ですね。そこで、将来の名義変更の約束を仮登記して、権利保全をはかり、住宅ローン完済後にスムーズに所有権を移転するための準備をするのです。
住宅ローン完済を条件とした所有権移転仮登記のメリットと注意点
権利保全が可能
住宅ローン完済を条件とした所有権移転仮登記を行うことで、住宅ローン完済後の所有権移転に向けた法的な権利を確保できます。仮登記をしていれば、第三者が住宅に対して権利を主張しても一定の優先権が認められます。
将来のトラブルを防ぐ
住宅ローンの支払いが完了した際に、所有権の移転をスムーズに進めることができます。
仮登記をしておくことで、住宅ローン完済時に、相手方が協力しない・・・行方不明になった・・・連絡が取れない等の場合に訴訟手続になったとしても有効な資料のひとつとなります。
安心感の提供
当事者にとって最も大きいメリットは、仮登記を行うことで、「ローン完済後には所有権が移転される」という安心感を持つことができるという点です。
住宅ローンの返済中で、名義変更登記ができないからといって、何も手続をとらずに放置しておくことは、将来、持ち家の名義を取得する側にとっては、かなりの不安材料です。
そのような不安材料を取り除き、安心感を提供するとともに、法的な権利保全にも役立つという点が、仮登記の最大のメリットです。
仮登記の注意点/第三者への対抗力が弱い
仮登記は正式な登記(本登記)ではないため、当然ですが、実際に住宅ローンを完済し、名義変更の本登記を行うまでは、完全な所有権を取得することができません。
具体的な手続きの流れ
仮登記の条件を決定/離婚協議書の作成
当事者間で、持ち家および住宅ローンについて、どのように処理をおこなうのか、話し合い、離婚協議書を作成します。
離婚協議書には、持ち家および住宅ローンに関する部分のみではなく、養育費や親権、慰謝料、年金分割など、離婚にあたり、当事者で取り決めた内容をすべて盛り込みましょう。
条件付所有権移転仮登記の必要物
登記申請書
離婚協議書もしくは登記原因証明情報
持ち家の現在の名義人の印鑑証明書
持ち家を将来もらう人の住民票
持ち家の評価額がわかるもの/評価証明書や課税明細書など
離婚届の提出~仮登記申請
離婚条件等について、当事者間で合意が整ったら、離婚届を提出し、条件付所有権移転仮登記を管轄法務局へ申請します。離婚時にできる登記手続はここまでです。
以後、住宅ローンの完済後に、所有権移転本登記(名義変更登記)を改めて行う必要があります。
ケーススタディ:仮登記の活用例
共有名義の住宅を妻が引き継ぐ場合
離婚協議書により、妻が住宅ローンの履行(支払い)を引継ぎ、住宅ローン完済時に財産分与による夫持分の名義変更を約束したようなケース。住宅ローンの完済まで、相当期間を要するため、条件付所有権移転仮登記をおこなうことにした。
住宅ローンの債務者が夫で妻が引き続き住み続ける場合
離婚協議書により、住宅ローンの支払いは、これまで通り夫が行うこととし、住宅ローン完済時に財産分与により妻に名義変更をすることを約束したケース。住宅ローンの完済まで、相当期間を要するため、条件付所有権移転仮登記をおこなうことにした。
仮登記を行わない場合のリスク
離婚協議書で、住宅ローン完済時に名義変更を行うことを約束するのみで、仮登記を行わないことも、もちろん可能ですが、その場合には、下記のようなリスクがあります。
持ち家の処分
相手方が勝手に、持ち家を売り飛ばしたり、持ち家を担保に新たな借金をしたりする可能性が排除できません。仮登記は、売却登記や担保設定登記の抑止力として、有効です。
訴訟時の負担増
住宅ローン完済時に、相手方が非協力的であったり、行方が知れない場合の訴訟手続で、内容をいちから立証することが必要となりの負担が大きくなる。