持ち家×離婚 住宅ローンを一括返済~持ち家の名義変更のパターン解説
持ち家がある場合の離婚手続で、よくある処理方法として、住宅ローンを一括返済して、持ち家の名義変更をするというパターンについて詳しく解説します。
住宅ローンを一括返済することで、銀行の承諾なく、持ち家について名義変更登記の処分行為をおこなうことができるため、自由度の高い方法となります。
目次
住宅ローンを一括返済~持ち家の名義変更のパターンの手順概要
解説の前提条件と当事者の要望は次の通りです。
前提条件と当事者の要望 | |
---|---|
現在の家の名義 | 夫の単独所有 |
現在の住宅ローンの債務者 | 夫が債務者 |
引続き家に住むのは?? | 妻側が住む。 |
持ち家の名義をどうしたい?? |
妻側の名義にしたい。
|
住宅ローンをどうしたい?? |
一括繰り上げ返済する。
|
住宅ローンを一括返済して、持ち家について財産分与による名義変更をする場合には、次のような手順で作業を進めることになります。
手順
離婚協議書を作成する
繰り上げ返済日を決めて、銀行に繰り上げ返済の申し込みをする。
登記書類や離婚届の準備をする。
繰上げ返済日に離婚届を提出し、抵当権抹消登記~名義変更登記を申請する。
以下で、各手順について解説していきます。
離婚協議書を作成する。
まずは、当事者間で離婚条件について合意が出来ていることが、スタートラインとなります。
持ち家、住宅ローンに関する条項について
離婚協議書には、住宅ローンを一括繰り上げ返済すること、持ち家の名義変更をすることが明確にわかるように記載します。
以下、持ち家と住宅ローンに関する条項の一例をご紹介します。
第1項
夫は、妻が現在居住する別紙物件目録記載の不動産に関する、夫を債務者とする下記住宅ローンの残金について、夫婦の共有財産により、早急に一括繰り上げ返済の手続をとることとする。
【住宅ローンの表示】
債権者/○○銀行株式会社
契約番号/123456789
当初借入日/○○年○○月○○日
当初借入金額/金○○○○円
令和○○年○○月○○日現在の残額 金○○○○円
第2項
夫は、妻に対し、財産分与を原因として、妻の居住する土地・建物について名義変更登記手続をする。登記手続費用は、○○の負担とする。
※実際に離婚協議書を作成する場合には、諸条件について事前に確認が必要です。
財産分与のもらいすぎに注意
一括繰り上げ返済の金額によっては、一方が財産分与として、「もらいすぎ」となるケースもありますので、他の財産に関する分与で調整するなど、対策と注意が必要です。
財産分与として、もらいすぎとなった場合、もらいすぎた部分が「贈与」と認定され、贈与税の課税対象となることもあります。
養育費、財産分与、親権など、その他の条項について
離婚協議書には、住宅ローンと持ち家に関する条項以外にも、養育費や親権、年金分割など、合意内容のすべてを記載します。
漏れがないように、また、双方で認識の相違がないように分かりやすく作成する必要がありまうす。
一括繰り上げ返済日を決めて、銀行に繰り上げ返済の申し込みをする。
離婚協議書が完成したら、銀行に対して、一括繰り上げ返済の申込をします。
リスク管理の点から、住宅ローンの一括繰り上げ返済による抵当権抹消登記と、持ち家の財産分与による名義変更登記を同日に処理することがよいかと思われます。
そこで、銀行に一括繰り上げ返済の申込をする際には、「一括繰り上げ返済日に、抵当権抹消書類を交付してほしい」と申し添える必要があります。
というのも、抵当権抹消書類は、銀行から、一括繰り上げ返済日の1週間程度後に、郵送にて債務者に交付されるのが一般的な事務処理の流れです。
「一般的には一括繰り上げ返済日の1週間程度後に郵送されるけれど、そうではなくて、一括繰り上げ返済当日に交付して欲しい」という事を銀行に対して伝える必要があるのです。
一括繰り上げ返済日に、抵当権抹消登記と所有権移転登記をすべき理由
一般的な銀行の事務処理に流れに従って、一括繰り上げ返済~抵当権抹消登記~名義変更登記を行うと仮定すると、一括繰り上げ返済日から約1週間の間、抵当権抹消登記~名義変更登記を行うことができないことになります。
一括繰り上げ返済日から1週間程度のあいだに、相手方と連絡が取れなくなったり、不測の事態が発生すると、最悪のケースでは、一括繰り上げ返済だけが完了し、「抵当権抹消登記~名義変更登記」を行えない状態となってしまいます。
こうなっては、大問題ですので、「一括繰り上げ返済~抵当権抹消登記~名義変更登記」までを同日で処理できるように手配する必要があります。
一括繰り上げ返済の申込時の注意点
WEBやアプリを通じて、一括繰り上げ返済をすると、手数料が安くなったり、無料になったりする金融機関も多くあります。
WEBやアプリを通じて、一括繰り上げ返済の申込をする場合も、別途、銀行の担当者に事情を説明し、一括繰り上げ返済日に抵当権抹消書類が受け取れるのか確認をする必要があります。
離婚届や登記書類の準備をする。
一括繰り上げ返済の申込が済んだら、離婚届や登記書類の準備を行いましょう。
離婚届は、離婚協議書で合意した日に提出するlことになります。
ただし、財産分与による名義変更登記は、離婚の後でなければ申請することが出来ません。
これを踏まえて、各日程の設定をする必要があります。
手続上のリスクを考慮するならば、一括繰り上げ返済当日に、離婚届の提出を行う方法がベストだといえます。
並行して、一括繰り上げ返済による抵当権抹消登記~財産分与による名義変更登記に必要な書類の準備を進めます。
各登記手続で一般的に必要となる書類は下記の通りです。
一括繰上げ返済による抵当権抹消登記
登記申請書
登記済み証、登記識別情報 ※銀行から交付される。
解除証書、放棄証書等の原因証明情報 ※銀行から交付される。
金融機関からの委任状 ※銀行から交付される。
財産分与による名義変更登記
登記申請書
登記済み証、登記識別情報
登記原因証明情報
夫側の印鑑証明書
妻側の住民票
土地、建物の評価証明書
前提として住所変更登記が必要なケースも
夫側の登記記録上の住所が、現住所と異なる場合、一括繰り上げ返済による抵当権抹消登記と財産分与による名義変更委登記の前提として、夫側の住所変更登記が必要となります。
住所変更登記も、一括繰り上げ返済当日に、他の登記とまとめて申請することが可能ですので、事前にしっかりと準備をします。
住所変更登記には、登記記録上の住所から現住所までの、住所の移転の経緯が証明できるように、住民票や戸籍附票が必要となります。
一括繰り上げ返済日に離婚届を提出し、抵当権抹消登記~名義変更登記を申請する。
一括繰り上げ返済の当日には、まず必要な資金移動を行います。具体的には、返済用口座に、一括繰り上げ返済に必要な金額を振込ます。
次に、一括繰り上げ返済が無事に行われたことを確認したのち、銀行窓口で抵当権抹消書類を受領します。
その後、離婚届の提出、一括繰り上げ返済による抵当権抹消登記~財産分与による持ち家の名義変更登記を順に申請しましょう。
登記手続の完了までには、2週間程度の日数を要することもあります。登記申請書等に不備があった場合には、当事者で補正作業が必要となる場合もありますので、登記手続が完了するまでは、注意が必要です。
住宅ローンを一括繰り上げ返済~持ち家の名義変更の手続を通じての注意点
離婚時に、住宅ローンを一括繰り上げ返済して、持ち家の名義変更をする場合には、住宅ローンの一括繰り上げ返済に多額の資金が必要であるということを踏まえて次の2点に注意が必要です。
住宅ローンの一括繰り上げ返済して財産分与をするに際して、財産分与が適切な金額なのか??もらい過ぎにならないか??
婚姻期間が短く、また住宅ローンの残存期間が長い場合には、特に注意が必要です。住宅の名義をもらう側が、財産分与としてもらい過ぎになっていないか確認が必要です。
一括繰り上げ返済後にやり直しは不可!離婚条件に疑問点や不安な点がないか??
いったん一括繰り上げ返済をしたのちに、離婚条件に争いが生じたとしても、一括繰り上げ返済をやり直すことはできません。
銀行は、夫婦間の離婚手続について、まったく関係がありませんので、夫婦間で離婚手続上のトラブルが生じてるからといって、手続をやり直してくれるような事はないのです。
一括繰り上げ返済を伴う離婚手続を進める場合には、離婚条件について、不備や不足、認識の相違がないか、しっかりと確認をおこなうことが必要です。