収益物件を売却するときは「いくらで売れるか」だけでは足りない
収益物件の売却を考え始めると、まず気になるのは、
「いくらで売れるのか?」
ではないでしょうか。
もちろん売却価格は重要です。
ただ、収益物件の場合は、売却価格がそのまま手元に残るわけではありません。
売却にあたっては、
- 仲介手数料などの売却費用
- ローンの残債
- 抵当権や根抵当権の抹消
- 登記に必要な費用
- 売却によって利益が出た場合の税金
なども考える必要があります。
特に見落としやすいのが「税金」です。
個人で所有している収益物件と、法人で所有している収益物件では、売却したときの税金の考え方も異なります。
そのため収益物件を売却するときは、
「いくらで売れるか」だけではなく、「ローンや税金、諸費用を差し引いて最終的にいくら残るのか」まで考えておくことが大切です。
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収益物件を購入するときの登記費用・必要書類・決済の流れについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
【2026年版】収益物件を購入したときの登記手続|費用・必要書類・決済の流れを司法書士が解説 →
まずは収益物件を売却するときの登記を確認
収益物件の売却では、買主へ不動産の名義を移す「所有権移転登記」が中心になります。
実際の所有権移転登記の申請は、買主側の司法書士が担当するケースも多いですが、売主にも登記に必要な書類を準備してもらいます。
そして、売却する収益物件に銀行などの抵当権が付いている場合には、所有権移転だけでは終わりません。
売却代金でローンを完済するなどして、抵当権を抹消する手続も必要になります。
売主が準備する主な書類
一般的な不動産売買では、売主側で次のような書類を準備します。
- 登記識別情報または登記済権利証
- 印鑑証明書
- 実印
- 本人確認書類
- 固定資産評価証明書など
- 司法書士への委任状等
法人が売主の場合には、法人の印鑑証明書や会社情報などが必要になることもあります。
ただし、実際に必要になる書類は登記内容によって変わります。
たとえば、
- 登記したときから住所が変わっている
- 結婚などで氏名が変わっている
- 権利証が見当たらない
という場合には、追加の手続や書類が必要になることがあります。
売買契約を締結してから慌てて探すより、売却が具体的になった段階で一度確認しておくと安心です。
住所が変わっている場合は、売却前に登記の確認を
収益物件を長期間保有していると、購入した当時から住所が変わっていることがあります。
たとえば、10年前に大阪市に住んでいたときにアパートを購入し、現在は奈良市へ転居しているケース。
ところが、不動産の登記簿には大阪市の住所が残っている。
このような場合には、原則として売却による所有権移転登記の前提として、住所変更登記が必要になります。
氏名が変わっている場合も同様です。
「売却するだけだから、そのままでいい」というわけではありません。
売却前に登記簿を確認しておくことで、決済直前になって必要書類が足りないという事態も防ぎやすくなります。
ローンが残っている収益物件でも売却できる?
もちろん、ローン返済中の収益物件を売却することは可能です。
実際の不動産売買では、
「売却代金を受け取って、そのお金でローンを完済する」
というケースも多くあります。
たとえば、
売却代金 5,000万円
ローン残高 2,500万円
という物件であれば、決済日に買主から売買代金を受領し、その一部で金融機関へローンを返済します。
金融機関から抵当権抹消に必要な書類を受け取り、
抵当権抹消
+
買主への所有権移転
を連続して行います。
ここで重要なのは、金融機関への完済手続と登記をきちんと連動させることです。
決済当日は大きなお金が動くため、司法書士は登記書類や本人の意思などを確認したうえで、所有権移転登記や抵当権抹消登記を進めます。
根抵当権が付いている収益物件は少し注意
収益物件オーナーの場合、通常の抵当権ではなく「根抵当権」が設定されていることもあります。
たとえば、法人の事業性融資について、
- 一棟アパート
- 別の収益マンション
- 事業用不動産
などを担保として利用しているケースです。
この場合、
「この物件を売るから、根抵当権だけ外してください」
と簡単に処理できるとは限りません。
金融機関との取引状況や担保の内容によって、売却する物件だけを担保から外すのか、借入を返済するのか、別の担保をどうするのかなどの調整が必要になることがあります。
事業性融資が絡む収益物件を売却するときは、通常の住宅ローン以上に早めの確認が重要です。
収益物件の売却で忘れてはいけない「譲渡所得税」
そして、収益物件を売却するときに必ず確認しておきたいのが税金です。
ここは、
「個人が所有している場合」
と、
「法人が所有している場合」
で分けて考えた方が分かりやすいでしょう。
個人所有の収益物件を売却した場合の譲渡所得
個人が土地や建物を売却して利益が生じた場合、その利益は原則として「譲渡所得」として課税されます。
基本的な考え方は、
売却代金 - 取得費 - 譲渡費用 = 譲渡所得
です。
たとえば、3,000万円で購入した収益物件を4,000万円で売却したとします。
この数字だけを見ると、
「1,000万円の利益だから、1,000万円に税金がかかる」
と思うかもしれません。
しかし、実際には単純に「売却価格-購入価格」で税金を計算するわけではありません。
取得費や譲渡費用などを確認して、課税対象となる譲渡所得を計算します。
「売却価格-購入価格」だけでは計算できない
収益物件の場合、特に注意したいのが建物の減価償却です。
土地は基本的に減価償却しませんが、建物については所有している間に減価償却が行われます。
そのため、売却時の取得費を考える際には、購入時の建物価格をそのまま使えるわけではありません。
長期間保有している収益物件では、
「思っていたより譲渡所得が大きくなった」
ということもあり得ます。
また、売却のために支払った仲介手数料など、一定の費用については譲渡費用として計算に含められる場合があります。
収益物件を売却する前には、
- 購入時の売買契約書
- 購入時の諸費用の資料
- これまでの減価償却の資料
- 売却時の仲介手数料等
などを確認しておくことが大切です。
個人の譲渡所得税は「5年」が大きなポイント
個人が土地や建物を売却した場合、所有期間によって税率が大きく変わります。
売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えている場合は「長期譲渡所得」、5年以下の場合は「短期譲渡所得」となります。
| 区分 | 所得税 | 住民税 |
|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 15% | 5% |
| 短期譲渡所得 | 30% | 9% |
※所得税には別途、復興特別所得税が加算されます。
ここで注意したいのが、
「購入してから丸5年経過したら長期になる」とは限らないことです。
判定するのは、売却した年の1月1日時点です。
売却時点では購入から5年以上経過しているように見えても、その年の1月1日時点では5年以下であれば、短期譲渡所得となる可能性があります。
収益物件を売却するタイミングによって税率が大きく変わる可能性があるため、売却時期を決める前に確認しておきたいポイントです。
収益物件なら「3,000万円控除がある」と思わない
自宅を売却したときには、一定の要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。
この制度を聞いたことがある方も多いでしょう。
ただし、一般的な投資用マンションや賃貸アパートなどの収益物件は、マイホームとは扱いが異なります。
「不動産を売ったら3,000万円まで税金がかからない」という制度ではありません。
収益物件を売却するときは、自宅売却の税制と混同しないよう注意しましょう。
法人所有の収益物件を売却した場合はどうなる?
次に、株式会社や合同会社など法人が所有している収益物件を売却するケースです。
ここは個人と考え方が異なります。
個人の場合には、不動産の譲渡所得を他の所得と分けて計算し、所有期間によって長期・短期の税率が変わります。
一方、法人の場合は、収益物件を売却したことによる損益を法人の所得計算に反映させ、原則として他の事業による利益や損失などと合わせて法人税等を計算します。
つまり法人については、
「5年以下だから短期譲渡所得」
「5年を超えたから長期譲渡所得」
という個人と同じ考え方で税率を判断するものではありません。
個人と法人では売却時の税金の考え方が違う
| 比較 | 個人所有 | 法人所有 |
|---|---|---|
| 売却益 | 原則として譲渡所得 | 法人の所得計算へ反映 |
| 他の所得・損益 | 原則として分離課税 | 他の事業損益などと合わせて計算 |
| 5年基準 | 長期・短期の判定あり | 個人と同じ長期・短期の税率区分ではない |
| 減価償却 | 取得費の計算に影響 | 帳簿価額・売却損益に影響 |
この違いは、収益物件を個人で持つか法人で持つかを考えるうえでも重要です。
購入するときだけではなく、「将来売るときにどうなるのか」まで考えて所有形態を検討する必要があります。
個人名義・法人名義で迷っている方へ
収益物件を個人で購入する場合と法人で購入する場合の、所得税・融資・登記の違いはこちらの記事で比較しています。
【2026年版】収益物件は個人名義・法人名義どちらで購入する? →
法人ならいつ売っても税金は同じ、という意味ではない
法人には個人のような「5年超なら長期譲渡所得」という区分はありません。
だからといって、
「法人ならいつ売却しても税金はまったく同じ」
という意味ではありません。
その事業年度にどれくらい利益が出ているのか。
他の事業で損失が出ているのか。
売却する物件の帳簿価額はいくらなのか。
こうした事情によって法人全体の課税所得は変わります。
具体的な売却時期や税額については、顧問税理士などへ事前に確認することをおすすめします。
「いくらで売れるか」より「いくら残るか」
収益物件オーナーにとって重要なのは、売却価格だけではありません。
たとえば5,000万円で売却できたとしても、
売却価格 5,000万円
↓
ローン残高を返済
↓
仲介手数料などを支払う
↓
登記関係の費用
↓
売却による税金
↓
最終的に手元に残る金額
というお金の流れがあります。
収益物件の売却では、「いくらで売れるか?」ではなく「最終的にいくら残るのか?」という視点が大切です。
相続した収益物件を売却する場合
相続したアパートやマンションを売却するケースもあります。
たとえば、
「父が所有していた賃貸アパートを相続したけれど、自分では経営する予定がないので売却したい」
という場合です。
まだ不動産が亡くなった方の名義になっているのであれば、原則として、
亡くなった方
↓
相続人への相続登記
↓
買主への所有権移転登記
という順番で手続を進めます。
亡くなった方の名義から、買主へ直接売却による所有権移転登記をするわけではありません。
また、相続した不動産の譲渡所得を計算する場合、原則として被相続人の取得時期や取得費を引き継ぐという点も重要です。
「相続した日から5年経ったかどうか」だけで長期・短期を判断するものではありません。
相続物件は通常の売却より確認事項が増えるため、早めに司法書士や税理士へ相談することをおすすめします。
法人所有の物件を売るときは代表者個人の物件と混同しない
一人会社や家族経営の会社では、
「会社の物件も自分の物件も同じようなもの」
という感覚になっていることがあります。
しかし、法律上は法人と代表者個人は別の主体です。
株式会社が所有するアパートを売却するのであれば、売主は代表者個人ではなく株式会社です。
売買契約や所有権移転登記についても、法人所有の不動産として手続を進めます。
不動産会社を通さない個人間売買にも対応
収益物件では、
- 知り合いの大家さんから直接買いたいと言われた
- 同じ地域の不動産オーナーへ売却する
- 親族や知人へ収益物件を売却する
といった、不動産会社を通さない売買が行われることもあります。
仲介会社がいない場合には、売買条件、売買契約書、代金の支払時期、登記書類の引渡しなどを当事者で整理する必要があります。
特に高額な収益物件では、
「代金を払ったのに登記できない」
「登記書類を渡したのに代金が入らない」
という事態は避けなければなりません。
司法書士法人あやめ池事務所では、不動産会社を通さない個人間売買についても、売買契約書の作成から決済・登記まで対応しています。
遠方の収益物件を売却する場合も相談できます
収益物件オーナーの場合、
「奈良に住んでいるけれど、売却する物件は東京」
「法人は関西にあるけれど、九州の収益物件を売却する」
ということも珍しくありません。
司法書士法人あやめ池事務所では、オンライン面談なども活用しながら、遠方物件についても対応しています。
ただし、買主が融資を利用する場合などには、金融機関から司法書士を指定されるケースもあります。
売却が決まりそうな段階で一度確認しておくとスムーズです。
収益物件の売却前に登記簿を一度確認しておく
売却活動を始める前、または買主が決まりそうな段階で、不動産の登記内容を確認しておくことをおすすめします。
チェックしたいのは、
- 所有者の住所・氏名
- 抵当権の有無
- 根抵当権の有無
- 過去の担保が残っていないか
- 相続登記が済んでいるか
- 建物の登記状況に問題がないか
といった点です。
特に長期間所有している収益物件では、
「昔完済したはずの抵当権が登記簿に残っていた」
ということもあります。
決済直前になって問題が発覚すると、金融機関や買主との調整が必要になり、予定していた決済日に間に合わなくなる可能性もあります。
収益物件の売却は「登記・融資・税金」をセットで考える
収益物件の売却は、単に買主へ名義を変更するだけではありません。
売却前には、
- 現在の登記内容
- ローン残高
- 抵当権・根抵当権
- 売却に必要な書類
- 個人なら譲渡所得税
- 法人なら法人全体の税負担
- 最終的に手元へ残る金額
まで確認しておくことが大切です。
特に個人所有の収益物件では、所有期間によって長期譲渡所得・短期譲渡所得が分かれるため、売却時期によって税負担が大きく変わる可能性があります。
一方、法人所有の場合は、個人のような5年基準ではなく、法人全体の所得の中で売却損益を考えることになります。
税額については税理士へ。
そして、所有権移転、住所変更、相続登記、抵当権・根抵当権の抹消などについては司法書士へ。
「売却することが決まってから」ではなく、「そろそろ売ろうかな」という段階で一度整理しておくと、その後の手続がかなりスムーズになります。
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これから収益物件を購入する場合の所有権移転登記、融資利用時の抵当権設定、必要書類などについては、こちらの記事で詳しく解説しています。



