収益物件を法人名義で買う目安は「課税所得1,000万~1,200万円前後」

「収益物件は、個人と法人のどちらで買った方がいいですか?」

不動産投資をしている方からよく出てくる疑問です。

もちろん、すべての方に共通する「この金額を超えたら法人」という絶対的な基準があるわけではありません。

ただ、一つの検討ラインとして分かりやすいのが、個人の課税所得が1,000万円~1,200万円前後になってきたときです。

現在の課税所得がすでにこの水準にある方はもちろん、

「次の収益物件を買うと、この水準を超えそう」

という方も、次の物件から法人名義で取得することを具体的に検討してよいタイミングでしょう。

法人名義を検討したい一つの目安

  • 現在の課税所得が1,000万円~1,200万円前後またはそれ以上
  • 次の収益物件を購入すると、その水準を超える見込み
  • 今後も2件、3件と収益物件を買い増す予定
  • 給与所得など本業からの所得がすでに高い
  • 法人で事業性融資を受けながら不動産事業を拡大したい
  • 将来的な事業承継や家族への所得分散まで考えている

課税所得1,000万円~1,200万円は「法人にすべき絶対ライン」ではありません。

法人には設立費用、毎年の決算・申告、社会保険などの負担もあります。

そのため、

「1,200万円を超えたから法人」

ではなく、

「1,000万円~1,200万円あたりまで来たら、個人のまま次の物件を買ってよいのか一度比較してみる」

くらいの判断ラインとして考えると分かりやすいでしょう。

個人名義と法人名義そのものを比較したい方はこちら
収益物件は個人名義・法人名義どちらで購入する?所得税・融資・登記の違い

なぜ所得が高くなると法人名義が選択肢に入る?

理由の一つは、個人の所得税が累進課税だからです。

個人の所得税率は、課税される所得金額が900万円を超える部分について33%、1,800万円を超える部分について40%となります。

さらに住民税なども考える必要があります。

そのため、本業ですでに一定の所得がある会社員や経営者が、さらに個人名義で収益物件を増やしていくと、不動産所得が高い税率の部分に積み上がっていくことがあります。

一方、法人には法人税だけでなく法人住民税や法人事業税などがあり、単純に所得税率と法人税率だけを比べることはできません。

  • 役員報酬をどうするのか
  • 社会保険はどうなるのか
  • 法人に利益を残すのか
  • 個人へ利益を移すのか

こうした条件でも結果は変わります。

したがって、「所得税33%だから法人の方が絶対に得」ではありません。

ただ、個人の課税所得が1,000万円を超えてくるあたりから、個人名義だけで不動産を増やし続けるのか、法人名義も使うのかを比較する意味は大きくなってきます。

「今の所得」ではなく「次の物件を買った後」で考える

ここは非常に重要です。

法人名義を検討するタイミングは、「すでに所得が高くなってから」だけではありません。

たとえば現在の課税所得が900万円程度だったとします。

そして、次に購入する収益物件から年間300万円程度の所得が増える見込みなら、

現在の課税所得 900万円

新しい収益物件からの所得 300万円

1,200万円

となります。

このような場合には、

「今回もとりあえず個人名義で買おう」

と決める前に、「この物件から法人名義にした方がいいのでは?」と検討しておく価値があります。

なぜなら、一度個人名義で買った不動産を、あとから法人名義へ移すのは簡単ではないからです。

「所得が増えたら後から法人に移せばいい」が意外と大変

よくある考え方が、

「今は個人で買っておいて、もっと儲かるようになったら法人へ移せばいい」

というものです。

ところが、不動産については、この方法が必ずしも効率的とは限りません。

一度個人名義で取得した収益物件を法人へ移す場合、

  • 個人から法人への売買等
  • 所有権移転登記
  • 登録免許税
  • 不動産取得税
  • 個人側の譲渡所得税の検討
  • ローンや担保の組み直し

などが必要になる可能性があります。

不動産は「個人事業を法人化したから、今日からこのアパートも会社のもの」とはなりません。

今後法人で収益物件を増やしていく可能性が高いのであれば、所得が十分高くなってからではなく、「次の1件を購入する前」に検討することが重要です。

会社員は「副業規定」も法人名義を考える材料になる

会社員の方の場合、税金以外にも確認しておきたいことがあります。

勤務先の副業・兼業に関する規定です。

勤務先によっては、不動産賃貸業について届出や許可が必要だったり、一定の事業活動について制限を設けていたりする場合があります。

そのため、会社員の方が収益物件を購入する場合には、

「税金だけなら個人名義でいいかな」

と決める前に、勤務先の就業規則なども確認しておくとよいでしょう。

ただし、「法人名義にすれば副業規定を回避できる」という意味ではありません。

法人を設立して代表者や役員になることについて規定が設けられている勤務先も考えられます。

会社員の方が確認したいこと

  • 個人名義で不動産賃貸を行うこと
  • 法人を設立すること
  • 法人の代表者・役員になること

税金だけでなく、勤務先との関係まで含めて「個人か法人か」を考える必要があります。

収益物件1件だけなら個人名義でもいい?

これもよくある疑問です。

「アパートを1棟買うなら法人を作った方がいいですか?」

これについても、物件数だけで決めることはできません。

たとえば、次の2人を比べてみましょう。

Aさん Bさん
本業の所得 それほど高くない すでに高い
購入予定 2,000万円程度の区分1室 1億円程度の一棟物件
今後 買い増し予定なし 数年以内にさらに購入予定

Bさんのようなケースでは、最初の1件から法人名義を検討する意味が大きくなります。

つまり、「何棟持っているか」より、「現在の所得」「購入後の所得」「今後どこまで増やすか」を見る方が、判断材料としては分かりやすいでしょう。

すでに個人名義で収益物件を持っている場合はどうする?

ここからは、すでに個人名義で不動産を所有している方の話です。

たとえば、

個人名義でアパートを購入

数年後に所得が増加

不動産保有会社を設立

今後は法人で賃貸経営をしたい

というケースです。

ここで、

「自分が100%株主の会社だから、名義だけ法人に変えればいいですよね?」

と思われることがあります。

しかし、個人と法人は法律上別の存在です。

たとえ自分一人で設立した会社でも、「山田太郎」から「株式会社山田不動産」へ所有者を変えるのであれば、不動産の所有権が別の主体へ移転することになります。

単なる名義変更ではありません。

「法人化」と「不動産を法人名義にすること」は別

個人で行っていた賃貸経営について会社を設立しても、その瞬間に個人所有の土地や建物まで会社のものになるわけではありません。

会社を設立しただけなら、

  • 土地・アパート → 個人所有のまま
  • 株式会社 → 別に存在

という状態です。

既存の不動産を法人へ移したいのであれば、別途、所有権を移転するための法律上の原因と登記手続が必要です。

主な方法として、

  • 個人から法人へ売却する
  • 法人へ現物出資する

などが考えられます。

方法① 個人から自分の法人へ収益物件を売却する

比較的イメージしやすいのが売買です。

たとえば、

売主 山田太郎
買主 株式会社山田不動産

として売買契約を締結し、法人へ所有権移転登記を行います。

自分が代表者で100%株主の会社でも、個人と法人は別人格です。

「自分から自分への名義変更」ではなく、「個人から会社への不動産売買」として考えます。

自分の会社だから売買価格は自由、ではない

ここは注意が必要です。

たとえば時価5,000万円程度の収益物件を、

「自分の会社だから500万円で売っておこう」

というように、極端に低い価格で売却すればよいわけではありません。

個人が法人に対して資産を著しく低い価格で譲渡した場合には、税務上、実際の売買価格ではなく時価を基準として譲渡所得を計算する取り扱いがあります。

そのため、個人と自分の法人との売買でも、価格設定には合理的な根拠を持たせておくことが重要です。

不動産会社による査定や不動産鑑定、収益性などを参考にしながら価格を検討し、具体的な税務判断については税理士へ確認しておくとよいでしょう。

個人側には譲渡所得税が発生することがある

個人から法人へ売却すれば、個人側では不動産を売却したことになります。

売却によって利益が生じれば、譲渡所得に対する税金が発生する可能性があります。

基本的には、

売却代金 - 取得費 - 譲渡費用 = 譲渡所得

という考え方です。

特に収益物件で注意したいのが建物の減価償却です。

「3,000万円で買った物件を3,000万円で会社へ売るから利益はゼロ」とは限りません。

建物部分について減価償却が進んでいれば、税務上の取得費は購入当時より小さくなっている可能性があります。

法人へ移す前に、個人側でどの程度の譲渡所得が発生するのか確認しておきましょう。

法人側にも不動産取得の費用がかかる

法人側から見ると、新しく不動産を取得することになります。

そのため、

  • 登録免許税
  • 不動産取得税
  • 司法書士費用
  • 融資関連費用

などが発生する可能性があります。

「自分の不動産を自分の会社へ移すだけ」でも、法律上・税務上は一つの不動産取引です。

法人化による将来のメリットだけでなく、「移すために最初にいくらかかるのか」も計算しておきましょう。

方法② 法人へ現物出資する

もう一つ考えられる方法が現物出資です。

会社への出資というと現金をイメージしますが、不動産などの財産を出資する方法もあります。

たとえば個人所有の収益物件を法人へ現物出資し、その対価として株式等を取得する方法です。

この場合も不動産の所有者は、

個人 → 法人

へ変わります。

そのため所有権移転登記が必要です。

「現物出資なら譲渡所得税がかからない」は誤解

「売ったわけではなく出資だから、譲渡所得税はかからないのでは?」

と思うかもしれません。

しかし、税務上はそう単純ではありません。

不動産を法人へ現物出資する場合も、原則として資産の譲渡として所得税の課税関係を検討する必要があります。

したがって、

「売買だと税金がかかるから、現物出資にすれば税金なしで法人名義にできる」

というものではありません。

また、現物出資では会社法上の手続や財産評価なども関係します。

法人へ移すための「裏技」というより、選択肢の一つとして専門家と検討する方法と考えた方がよいでしょう。

売買と現物出資、どちらがいい?

これは物件や法人の状況によって変わります。

売買なら、個人が法人へ不動産を売り、法人が売買代金を支払うという比較的分かりやすい構造になります。

一方、現物出資では、不動産を会社へ出資し、その対価として株式等を取得するという会社法上の仕組みが関係します。

どちらを選ぶかは、

  • 物件の時価
  • 個人側の取得費
  • 建物の減価償却
  • 法人の資金
  • 既存の借入
  • 法人の株主構成
  • 今後の不動産取得予定
  • 税負担

などを含めて判断することになります。

ローンが残っている物件は、登記より先に金融機関へ相談

収益物件の法人移転で、特に注意したいのがローンです。

たとえば、

  • 所有者 個人
  • 借主 個人
  • 抵当権者 金融機関

となっている収益物件について、所有者だけ法人へ変更すると、融資契約との関係で問題になる可能性があります。

金融機関は「個人が所有する物件」を前提に融資していることがあります。

そのため、ローンが残っている物件を法人へ移すのであれば、登記を進める前に金融機関へ相談しておくことが重要です。

「個人ローンを残したまま法人名義」は慎重に

ここで区別したいのが、

「登記手続として所有権を移転できるか」

と、

「融資契約上、その移転が認められるか」

です。

これは別の問題です。

金融機関との調整によっては、

  • 個人の借入を完済する
  • 法人が新しく融資を受ける
  • 法人へ借換えする
  • 抵当権等を設定し直す

などの対応を検討することがあります。

「法人名義にしてから銀行へ報告すればいい」ではなく、融資が残っている場合は先に相談する方が安全でしょう。

根抵当権が付いている場合はさらに確認が必要

収益物件では、通常の抵当権だけでなく根抵当権が設定されていることがあります。

特に複数物件を所有するオーナーの場合、複数の物件が一つの金融機関との取引について担保になっていることもあります。

そのうち1物件だけを法人へ移そうとしても、その物件だけを見て判断できないケースがあります。

融資や担保の状況によっては、債務者変更、追加設定、極度額変更などを含めて検討する場合があります。

収益物件の法人移転では、所有権移転だけでなく、登記簿に付いている担保まで一緒に確認しましょう。

家賃だけ法人で受け取れば法人化できる?

「不動産は個人名義のままで、家賃の振込口座だけ法人に変えればいいのでは?」

と考える方もいるかもしれません。

しかし、不動産の所有者が個人である以上、家賃の振込先を法人名義の口座にしただけで、当然に法人の家賃収入になるわけではありません。

個人が不動産を所有したまま、法人を管理会社として利用し、入居者管理・家賃管理・建物管理などを法人へ委託する方法を検討することはあります。

その場合には、法人が実際にどのような業務を行うのか、管理料はいくらが適切なのかなども重要になります。

具体的なスキームについては税理士へ確認しておくことをおすすめします。

入居者・管理会社への引継ぎも必要

個人から法人へ収益物件そのものを移せば、入居者がいる状態で大家さんが変わることになります。

そのため登記だけでなく、

  • 管理会社への連絡
  • 入居者への所有者変更通知
  • 家賃振込先の変更
  • 敷金等の引継ぎ
  • 賃貸借契約関係の整理

なども必要になります。

登記が終われば法人化完了、ではなく、その後の賃貸経営を法人へスムーズに引き継ぐところまで考えておきましょう。

個人から法人への所有権移転登記

売買によって収益物件を法人へ移す場合には、売買を原因とする所有権移転登記を行います。

一般的には、

  • 売主 個人
  • 買主 法人

として登記申請します。

登記手続では、売主側の登記識別情報(権利証)、印鑑証明書、法人側の情報、固定資産評価額が分かる資料など、案件に応じた書類を確認します。

また、登記簿上の個人の住所が現在の住所と異なっている場合には、所有権移転登記の前提として住所変更登記が必要になることがあります。

「自分の会社だから登録免許税も安い」わけではない

自分が100%株主の会社へ売却する場合でも、所有権移転登記には登録免許税がかかります。

「実質的には自分のものだから」という理由で登録免許税がなくなるわけではありません。

個人と法人は別人格だからです。

法人へ移すかどうかを考えるときには、税理士による税額シミュレーションとあわせて、登記に必要な費用も確認しておくと判断しやすくなります。

法人へ移す前に「移転コスト」を計算する

個人所有の収益物件を法人へ移すときには、少なくとも次の項目を確認しておきたいところです。

個人側 法人側
・譲渡所得税等
・ローン完済に伴う費用
・抵当権等の抹消費用
・売買契約等に伴う費用
・不動産購入代金
・登録免許税
・不動産取得税
・融資関連費用
・抵当権・根抵当権設定費用
・司法書士費用

実際に必要となる費用は案件によって異なります。

重要なのは、「法人にすれば毎年いくら得するか」だけではありません。

「法人へ移すために、最初にいくら必要なのか」まで計算することです。

たとえば「年間50万円得する」なら法人へ移すべき?

たとえば税理士にシミュレーションしてもらった結果、

「法人で保有すると、現在より年間50万円程度有利になりそう」

という結果になったとします。

それだけを見ると「すぐ法人へ移そう」となりそうです。

しかし、既存物件を法人へ移すための税金・登記・融資などの費用が合計300万円かかるとしたらどうでしょう。

移転コスト 300万円
÷
年間メリット 50万円

約6年

単純計算では、移転コストを回収するだけで約6年かかります。

しかも、その間に物件を売却する可能性もあります。

一方で、「今後20年間保有する」「これから法人で5棟、10棟と増やしていく」という方なら、違う判断になるかもしれません。

「年間いくら有利になるか」と「移すためにいくらかかるか」の両方を見る。

これが法人移転を判断するときの一つの考え方です。

既存物件は個人のまま、次の物件から法人という方法もある

法人化を考えると、

「今持っている不動産を全部法人へ移さなければ」

と思うかもしれません。

しかし、必ずしもそうではありません。

アパートA 個人名義のまま
アパートB 個人名義のまま

次に購入するマンションC 法人名義
その次のアパートD 法人名義

という形も考えられます。

既存物件の法人移転に大きなコストがかかるのであれば、「過去に買ったものは個人」「これから買うものは法人」と分ける方が合理的なケースもあります。

結局、法人名義を検討するタイミングはいつ?

最後に整理します。

絶対的な基準ではありませんが、

「個人の課税所得が1,000万円~1,200万円前後になってきた」

というのは、法人名義を具体的に比較してみる一つのタイミングです。

さらに重要なのが、

「次の物件を購入すると、その水準を超えそう」

という段階です。

この場合には、「今回までは個人でいいか」と購入してしまう前に、法人名義での取得も比較しておいた方がよいでしょう。

法人名義を早めに検討したいケース

  • 本業の所得が高い
  • 次の物件で課税所得が1,000万円~1,200万円前後を超えそう
  • 今後も収益物件を買い増す予定
  • 法人融資を利用して不動産事業を拡大したい
  • 将来的な事業承継なども考えている

逆に、収益物件は当面1件だけ、個人の課税所得もそれほど高くない、今後の買い増し予定もないという方なら、個人名義の方がシンプルなケースもあります。

大切なのは、

「個人と法人、どちらが絶対に得か」

ではありません。

「自分の場合、どのタイミングから法人を使うのが合理的か」

を考えることです。

収益物件の法人化は「買ってから」より「買う前」に考える

個人所有の収益物件を法人へ移すこと自体は可能です。

しかし、一度個人で取得してしまえば、あとから法人へ移すために売買や現物出資、所有権移転登記、税金、融資の調整などが必要になる可能性があります。

だからこそ、

「所得が高くなったら考えよう」

では少し遅いことがあります。

今後の所得や物件の買い増しによって法人名義が選択肢に入ってきそうなら、「次の物件を買う前」が一つの検討タイミングです。

司法書士法人あやめ池事務所では、個人から法人への所有権移転登記はもちろん、収益物件の購入登記、抵当権・根抵当権設定、極度額変更など、収益物件に関する登記手続をご相談いただけます。

税務については税理士、融資については金融機関とも確認しながら、

  • 既存物件を法人へ移すのか
  • 既存物件は個人のまま残すのか
  • 次の物件から法人名義にするのか

というところから検討しておくとよいでしょう。


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