収益物件を相続したら、まず何をすればいい?

親が亡くなり、実家ではなく「賃貸アパート」や「投資用マンション」を相続することになった。

この場合、普通の不動産相続とは少し事情が違います。

なぜなら、収益物件は相続が発生したあとも、

  • 入居者が住んでいる
  • 毎月家賃が入ってくる
  • 管理会社との契約がある
  • ローンが残っていることがある
  • 固定資産税や修繕費などの支払いがある

からです。

相続人同士で「誰が相続するか、まだ決まっていないから、とりあえずそのままで」としている間にも、賃貸経営そのものは続いていきます。

そのため収益物件を相続した場合は、相続登記だけではなく、

  • 家賃をどうするのか
  • ローンはどうなっているのか
  • 管理会社や入居者へどう連絡するのか
  • 誰が賃貸経営を引き継ぐのか
  • そのまま保有するのか、売却するのか

まで一緒に考えていく必要があります。


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まず確認したい「その収益物件は誰の名義か」

最初に確認しておきたいのが、不動産の登記名義です。

たとえば、父が賃貸アパートを経営していたとしても、

  • 土地は父、建物は母との共有
  • 土地が祖父名義のまま
  • 建物の一部が未登記

ということもあります。

「父が管理していたから、全部父の財産だろう」と思い込まず、まず登記事項証明書などで現在の権利関係を確認することが重要です。

特に古くから所有しているアパートや貸家では、現在の実態と登記が一致していないケースもあります。

収益物件も相続登記が必要です

亡くなった方の名義になっている収益物件については、相続登記を行います。

相続登記は2024年4月1日から義務化されています。

原則として、不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記をする必要があります。

アパート、一棟マンション、投資用区分マンション、貸家、店舗、事務所、駐車場などについても、不動産を相続すれば相続登記の対象です。

そして収益物件の場合には、単に名義を変更すれば終わりではありません。

「誰がこの不動産を取得して、今後誰が経営するのか」まで考えて相続方法を決めることが重要です。

誰が収益物件を相続するかは慎重に決める

相続人が一人なら比較的分かりやすいのですが、兄弟姉妹など複数の相続人がいる場合には注意が必要です。

たとえば父が亡くなり、長男・長女・次男の3人が相続人だったとします。

3人でアパートを3分の1ずつ共有することもできます。

しかし、

「法定相続分どおりに共有しておけば公平だから」

という理由だけで共有にするのは、慎重に考えた方がよいでしょう。

収益物件は相続したあとも、

  • 大規模修繕をするのか
  • 家賃を変更するのか
  • 建て替えるのか
  • 売却するのか

など、継続的な経営判断が必要だからです。

さらに兄弟の一人が亡くなれば、その持分が配偶者や子へ相続され、共有者がさらに増えていく可能性があります。

目先の公平さだけでなく「誰が今後経営していくのか」という視点から遺産分割を考えることが大切です。

親が亡くなったあとに入ってくる家賃は誰のもの?

収益物件の相続で、よく問題になるのが家賃です。

たとえば父が8月10日に亡くなったとしても、アパートには入居者がいますので、9月も10月も家賃は入ってきます。

では、この家賃は誰のものなのでしょうか。

ここは、「最終的にアパートを相続した人が、死亡後の家賃も当然すべてもらえる」と単純に考えない方が安全です。

遺産分割が成立するまでに発生した賃料については、不動産そのものとは別に扱われる問題があり、相続人間で整理が必要になることがあります。

たとえば、

「長男がアパートを相続することになったから、父の死亡後に入った家賃も全部長男のもの」

としてしまうと、他の相続人との間で認識が食い違う可能性があります。

収益物件を相続した場合には、不動産の名義だけでなく、相続発生後に入ってきた家賃についても記録を残しておくことをおすすめします。

家賃の振込口座が亡くなった方の口座だったら?

これも収益物件ならではの問題です。

家賃の振込先が亡くなった方の銀行口座になっている場合、金融機関が死亡を把握すると口座の取引が制限されることがあります。

管理会社が家賃をまとめて振り込んでいる場合には、管理会社への連絡も必要になります。

そのため、早めに次の点を確認しましょう。

  • 家賃を誰が受け取っているのか
  • 振込口座はどこか
  • 管理会社が入っているか
  • 管理会社との契約名義は誰か

遺産分割が終わっていない段階では、一人の相続人の判断だけで家賃の振込先を変更するのは避け、相続人間で取り扱いを整理しておくことが大切です。

管理会社や入居者への連絡も忘れずに

管理会社へ管理を委託している収益物件であれば、所有者が亡くなったことを管理会社へ連絡します。

管理会社から、

  • 今後の家賃はどうすればいいですか?
  • 修繕の承認は誰からもらえばいいですか?
  • 契約者変更の書類を提出してください

などと確認されることがあります。

一方、自主管理していたアパートであれば、相続人側で入居者への連絡も考えなければなりません。

相続が発生したからといって、入居者との賃貸借契約が突然なくなるわけではありません。

入居者にとっては、オーナーが亡くなったあとも生活が続いています。

そこで、相続直後と相続手続完了後の2段階に分けて通知すると分かりやすいでしょう。

【文例1】相続手続中の入居者へのお知らせ

まだ遺産分割が終わっていない段階では、新しい所有者を確定的に記載するのではなく、「相続手続中であること」「当面の連絡先」「家賃の支払方法に変更があるか」を伝える方法があります。

令和○年○月○日

ご入居者様 各位

賃貸物件所有者の相続に関するお知らせ

平素よりお世話になっております。

このたび、本物件の所有者である○○○○が、令和○年○月○日に逝去いたしましたので、お知らせいたします。

現在、相続人において本物件に関する相続手続を進めております。

相続手続が完了するまでの間、本物件に関するお問い合わせにつきましては、下記連絡先までお願いいたします。

なお、現時点では家賃のお支払方法に変更はございません。これまでと同じ方法でお支払いくださいますようお願いいたします。

今後、所有者名義や家賃振込先等に変更が生じる場合には、あらためて書面にてご案内いたします。

ご入居者の皆様にはお手数をおかけいたしますが、何卒よろしくお願い申し上げます。

【当面の連絡先】
氏名:○○○○
電話番号:○○○-○○○○-○○○○
メールアドレス:○○○○○○

以上

【文例2】相続完了後の新所有者・家賃振込先変更のお知らせ

遺産分割や相続登記が完了し、新しい所有者が決まったら、改めて所有者変更や今後の連絡先を通知します。

家賃の振込先も変更する場合には、「何月分の家賃から変更するのか」を明確に記載しましょう。

令和○年○月○日

ご入居者様 各位

所有者変更および家賃振込先変更のお知らせ

平素よりお世話になっております。

先般お知らせいたしました本物件の相続につきまして、このたび相続手続が完了し、令和○年○月○日付で○○○○が本物件を相続することとなりました。

これに伴い、今後の本物件に関するお問い合わせにつきましては、下記連絡先までお願いいたします。

また、令和○年○月分の家賃より、振込先を下記口座へ変更させていただきます。

【新しい所有者】
氏名:○○○○
住所:○○○○○○

【今後の連絡先】
電話番号:○○○-○○○○-○○○○
メールアドレス:○○○○○○

【新しい家賃振込先】
金融機関名:○○銀行
支店名:○○支店
口座種別:普通
口座番号:○○○○○○○
口座名義:○○○○

※令和○年○月分までは、従前の方法でお支払いください。
※令和○年○月分以降の家賃について、新しい振込先へお支払いをお願いいたします。

ご入居者の皆様にはお手数をおかけいたしますが、何卒よろしくお願い申し上げます。

以上

家賃の振込先変更は特に慎重に

相続を理由として突然「来月からこの口座へ振り込んでください」という通知が届けば、入居者が「振込詐欺ではないか?」と不安になるのも無理はありません。

管理会社が入っているのであれば、管理会社と相談したうえで通知する方がスムーズでしょう。

自主管理の場合も、連絡先を明記するなど、入居者が内容を確認できるようにしておくことをおすすめします。

相続発生のお知らせと、家賃振込先変更のお知らせは、状況に応じて分けて通知する。

これが一つの分かりやすい進め方です。

収益物件のローンが残っている場合はどうなる?

次に確認したいのが借入です。

収益物件の場合、住宅ローンではなく、アパートローンや事業性融資を利用していることがあります。

まず確認したいのは、

  • 借入先の金融機関
  • 現在のローン残高
  • 毎月の返済額
  • 抵当権・根抵当権の内容
  • 保証の内容
  • 団体信用生命保険などの有無

です。

「所有者が亡くなったからローンも自動的になくなる」とは限りません。

融資契約や保険の内容によって扱いが変わるため、借入先の金融機関へ確認する必要があります。

根抵当権が付いている場合は特に確認を

複数の収益物件を所有していた方の場合、一つの物件だけを担保にしているとは限りません。

たとえば、アパートA・アパートB・事業用土地Cについて、金融機関との事業性融資のために根抵当権が設定されているケースもあります。

この場合、相続したアパートAだけを見て判断するのではなく、借入全体と担保全体を確認する必要があります。

特に「長男がアパートA、長女がアパートB」と分けて相続しようとしても、両方の物件が同じ融資の担保になっていることがあります。

収益物件の遺産分割では、不動産の評価額だけでなく、借入と担保関係まで確認してから分け方を決めることが重要です。

「経営を続けるか」「売却するか」を考える

相続した収益物件について、大きく分けると、

  1. そのまま賃貸経営を続ける
  2. 相続後に売却する

という選択肢があります。

もちろん「しばらく経営してから売る」という選択もできます。

重要なのは、なんとなく相続して、そのまま放置しないことです。

たとえば築30年のアパートなら、

  • 現在の家賃収入
  • 空室率
  • 年間の修繕費
  • 固定資産税
  • ローン残高
  • 今後必要になりそうな大規模修繕

などを確認します。

数字を整理してみると「思ったより利益が残らない」ということもあります。

逆に安定した家賃収入があり、借入も少ないのであれば、そのまま保有する選択肢もあるでしょう。

相続後も収益物件を保有する場合

相続したアパートやマンションを引き続き保有するのであれば、相続登記を行い、所有者を明確にします。

そのうえで、管理会社との契約、家賃の振込口座、火災保険、ローン返済、固定資産税、入居者対応などを新しい所有者へ引き継いでいきます。

特に複数の相続人がいる場合には、

「登記は長男だけど、家賃は兄弟で分ける」

など複雑な運用にすると、後々トラブルになる可能性があります。

誰が不動産を所有し、誰が賃貸経営を行い、誰が家賃収入を得るのか。

できるだけ分かりやすい形に整理しておくことをおすすめします。

相続した収益物件を売却する場合

「自分は不動産経営をするつもりがない」「兄弟全員が現金で分けたい」という場合には、相続した収益物件を売却する方法があります。

ただし、亡くなった方の名義のまま買主へ直接売却するのではなく、原則として先に相続登記を行います。

亡くなった方

相続人への相続登記

買主への所有権移転登記

売却することが最初から決まっている場合でも、誰の名義に相続登記をするのかは重要です。

「どうせ売るから、とりあえず相続人全員の共有にしておこう」とすると、売却時には共有者全員が売主になります。

売却まで見据えて遺産分割を考えた方がスムーズなケースもあります。

相続した収益物件を売るときの譲渡所得税

相続した収益物件を売却するときには、譲渡所得税にも注意が必要です。

ここでよくある勘違いが、

「父から今年相続したから、今年が取得1年目」

という考え方です。

個人が相続によって取得した不動産を売却する場合、原則として亡くなった方の取得時期を引き継ぎます。

たとえば、

父が20年前にアパートを購入

2026年に父が死亡

子がアパートを相続

2026年に売却

というケースでも、所有期間を単純に「子が相続してから数か月」と考えるわけではありません。

また、取得費についても被相続人から引き継ぐことになります。

収益物件の場合は建物の減価償却も関係するため、売却前に税理士へ税額を確認しておくと安心です。

「相続税を払ったから売却時の税金はかからない」ではない

相続税と、収益物件を売却したときの譲渡所得税は別の税金です。

そのため、「相続税を払ったから、売却するときにはもう税金はかからない」というわけではありません。

一定の要件を満たす場合には、支払った相続税の一部を取得費に加算できる特例が使えることもあります。

ただし、適用には要件や期間があります。

相続した収益物件を比較的早い時期に売却する予定であれば、相続税の申告だけでなく、その後の売却まで含めて税理士へ相談しておくとよいでしょう。

複数の収益物件を相続する場合は「物件ごとに分ける」方法も

亡くなった方が複数の収益物件を所有していることもあります。

たとえば、

  • アパートA 5,000万円
  • マンションB 3,000万円
  • 貸店舗C 2,000万円

というケースです。

この場合、すべての物件を兄弟で共有する方法だけではありません。

たとえば、

  • 長男 アパートA
  • 長女 マンションB
  • 次男 貸店舗C+預貯金

など、物件ごとに取得者を分けることも考えられます。

収益物件は、不動産価格だけではなく、家賃収入・空室率・ローン残高・修繕リスク・将来の売却可能性なども物件ごとに違います。

「評価額が同じだから公平」とは限らないのが収益物件の難しいところです。

共有で相続するなら「次の相続」まで考える

どうしても共有で相続する場合には、次の相続まで考えておきましょう。

たとえば兄弟2人が2分の1ずつ相続し、その後兄が亡くなって、その持分を妻と子が相続すると、共有者が増えていきます。

さらに相続が続けば、共有者がもっと増えることもあります。

共有状態そのものが直ちに悪いわけではありませんが、収益物件では修繕・建替え・売却などについて判断する場面が繰り返し発生します。

将来誰が賃貸経営を続けるのかが決まっているのであれば、相続時点からその点を意識しておくことが大切です。

建物が未登記だった場合はどうする?

古い貸家やアパートでは、建物が未登記になっていることがあります。

ここは司法書士だけでは完結しない手続です。

建物の表題登記は土地家屋調査士の業務です。

そのため、相続した収益物件を調査した結果、

「土地は登記されているけれど、アパートの建物登記が見当たらない」

という場合には、必要に応じて土地家屋調査士と連携しながら手続を進めます。

特に売却や融資を予定している場合には、未登記建物が問題になることがありますので、早めに確認しておきましょう。

遠方の収益物件を相続した場合も相談できます

親が所有していた収益物件が、自分の住んでいる地域にあるとは限りません。

たとえば、

「奈良に住んでいるけれど、父のアパートは大阪」

「東京に住んでいるけれど、奈良の貸家を相続した」

というケースもあります。

相続登記については、必ずしも物件所在地の司法書士へ依頼しなければならないわけではありません。

オンライン面談や郵送などを利用しながら手続を進めることも可能です。

収益物件の相続は「相続登記だけ」で考えない

収益物件を相続したとき、司法書士が行う中心的な手続は相続登記です。

しかし、その前後には考えなければならないことがたくさんあります。

  • 誰が相続するのか
  • 家賃はどうするのか
  • 入居者や管理会社へどう連絡するのか
  • ローンは残っているのか
  • 賃貸経営を続けるのか
  • それとも売却するのか

特に複数の相続人がいる場合には、「とりあえず法定相続分で共有」と決める前に、その後の賃貸経営まで考えてみることをおすすめします。

相続登記をしてから考えるのではなく、「この収益物件を今後どうしたいのか」を整理したうえで登記方法を決める。

これが収益物件の相続では大切です。

司法書士法人あやめ池事務所では、収益物件の相続登記だけでなく、相続後の売却を予定しているケースや、複数の収益物件があるケースなどについてもご相談いただけます。