【2026年8月リライト】
相続時精算課税制度の改正など、現在の制度に合わせて内容を全面的に見直しました。


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不動産を生前贈与すると贈与税がかかる?

「父名義の自宅を、息子名義に変えたい」

「夫名義の家を、妻名義にしておきたい」

不動産の名義変更について、このようなご相談は珍しくありません。

ここで最初に確認しておきたいのが、

なぜ名義を変更するのか?

ということです。

不動産の名義だけを、理由なく書き換えることはできません。

例えば、父が所有する不動産を、売買代金を受け取らずに息子へ渡すのであれば、基本的には贈与です。

そして、個人から財産の贈与を受けた場合、原則として贈与税の対象になります。

つまり、

「親子だから名義を変えただけ」

では済まない可能性があるということです。

不動産は価額が大きいため、何も考えずに贈与すると、想像以上の贈与税が発生することがあります。

一方で、贈与税には基礎控除や相続時精算課税、夫婦間の配偶者控除など、負担を抑えられる制度もあります。

この記事では、不動産を生前贈与するときに知っておきたい贈与税の制度と、贈与する前に考えてほしいポイントを司法書士の視点から分かりやすく解説します。

贈与税は「財産をもらった人」にかかる税金

贈与税は、原則として個人から財産を贈与された人にかかる税金です。

例えば、父が所有する土地と建物を息子へ無償で譲ったとします。

父から息子への贈与です。

この場合、基本的には財産をもらった息子側に贈与税がかかります。

親子だから非課税になるわけではありません。

夫婦間でも同じです。

「夫婦の財産なんだから、夫名義の自宅を妻名義に変えても問題ないでしょ?」

と思われることがありますが、不動産の所有権は別問題です。

夫単独名義の不動産を無償で妻へ移転すれば、原則として夫から妻への贈与として考えることになります。

親子・夫婦・兄弟姉妹など、親しい関係であっても、財産を無償で渡せば贈与税の問題が生じます。

贈与税は高い?不動産では特に注意

贈与税には、暦年課税の場合、年間110万円の基礎控除があります。

1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産について計算し、基礎控除後の金額に応じて税率が上がっていきます。

税率は最高55%です。

ただし、贈与税には「一般税率」と「特例税率」があります。

例えば、贈与を受ける年の1月1日時点で18歳以上の子や孫が、父母・祖父母などの直系尊属から贈与を受ける場合には、一定の条件のもと特例税率が適用されます。

ですから、

「不動産が5,000万円だから、5,000万円にそのまま55%を掛ければいい」

というような単純な計算ではありません。

さらに、不動産の贈与税を計算するときには、何を基準に不動産を評価するのかという問題もあります。

ここは登記で使用する固定資産評価額と混同しやすいところです。

不動産を贈与するときは、

「固定資産評価額が○○万円だから、贈与税もこの金額を基準に計算すればいい」

と自己判断しない方が安全です。

具体的な贈与税額については、税理士や税務署などに確認することをおすすめします。

方法1|年間110万円の基礎控除を利用する

もっとも基本的なのが、暦年課税の年間110万円の基礎控除です。

1年間に贈与を受けた財産の合計額が110万円以下であれば、原則として贈与税はかかりません。

この110万円は、

「贈与する人1人につき110万円」ではなく、「贈与を受ける人1人について年間110万円」

と考えるのがポイントです。

例えば、ある年に息子が、

父から100万円
母から100万円

の贈与を受けたとします。

「父から110万円まで、母からも110万円までだから大丈夫」ではありません。

息子がその年に受けた贈与は合計200万円です。

年間110万円を超えることになります。

不動産そのものを110万円ずつ贈与することも考えられるが……

「じゃあ、不動産の持分を毎年110万円分ずつ贈与すればいいのでは?」

という発想もあります。

理屈として検討できるケースはあります。

ただ、不動産の場合には、贈与するたびに所有権移転登記が必要になります。

その都度、

  • 登録免許税
  • 登記手続
  • 司法書士へ依頼する場合の報酬

なども考えなければなりません。

また、贈与税だけでなく相続税との関係もあります。

現金の110万円贈与と、不動産持分を毎年少しずつ贈与することは、同じ感覚で考えない方がよいでしょう。

方法2|2024年から大きく変わった「相続時精算課税制度」

親から子などへの生前贈与を考える場合、ぜひ知っておきたいのが相続時精算課税制度です。

この制度は2024年1月から大きく変わりました。

以前の相続時精算課税は、一度選択すると暦年課税の年間110万円の基礎控除を利用できない仕組みだったため、使いにくいと感じる方も少なくありませんでした。

しかし現在は違います。

2024年1月1日以後の贈与について、相続時精算課税にも年間110万円の基礎控除が設けられました。

さらに、累計2,500万円までの特別控除があります。

相続時精算課税のイメージ

年間110万円の基礎控除 + 累計2,500万円の特別控除

なお、2,500万円の特別控除は毎年利用できる枠ではなく、相続時精算課税を選択した後の贈与について累計で利用する特別控除です。

基礎控除後に特別控除を適用し、それを超えた部分については20%の税率で贈与税を計算する仕組みです。

これはかなり大きな改正です。

旧制度の知識のまま、

「相続時精算課税を選ぶと110万円控除は使えない」

と思っている方は注意してください。

年間110万円の部分は相続時にも加算されない

現在の相続時精算課税では、年間110万円の基礎控除に相当する部分は、原則として将来の相続税の課税価格にも加算されません。

この改正によって、相続時精算課税は以前より使いやすくなっています。

相続時精算課税の2,500万円は「完全非課税」とは違う

ここは非常に重要です。

「相続時精算課税なら2,500万円まで税金がかからない」

とだけ理解するのは危険です。

相続時精算課税は、その名前のとおり将来の相続とセットで考える制度です。

年間110万円の基礎控除部分を除き、制度を利用して贈与した財産は、原則として贈与者が亡くなったときの相続税計算との関係が出てきます。

つまり、

「贈与時に贈与税を払わなくてよかった=完全に税金が消えた」ではありません。

例えば父から子へ2,000万円相当の財産を移したとします。

相続時精算課税を利用して贈与時の税負担を抑えられたとしても、父が亡くなったときには相続税の計算まで確認する必要があります。

相続時精算課税は、

「贈与税をゼロにする裏技」

ではなく、

「生前贈与と将来の相続を一体で考える制度」

と理解する方が分かりやすいでしょう。

相続と生前贈与のどちらを選ぶか迷っている方は、

不動産の生前贈与と相続の違い

も参考にしてください。

相続時精算課税は一度選ぶと簡単には戻れない

もうひとつ重要なのが、制度選択です。

相続時精算課税は贈与者ごとに選択できますが、一度選択すると、その贈与者からの贈与について後から暦年課税へ戻すことはできません。

例えば、

父からの贈与 → 相続時精算課税
母からの贈与 → 暦年課税

というように贈与者ごとに考えることはできます。

しかし、

「とりあえず今年だけ相続時精算課税を使って、来年から父の贈与を暦年課税に戻そう」

という使い方はできません。

不動産は金額が大きいだけに、制度選択は慎重に行いたいところです。

方法3|婚姻期間20年以上なら「贈与税の配偶者控除」

夫婦間で自宅を贈与したい場合には、贈与税の配偶者控除を利用できることがあります。

いわゆる「おしどり贈与」と呼ばれることもある制度です。

婚姻期間20年以上などの一定の要件を満たす夫婦間で、

  • 居住用不動産そのもの
  • 居住用不動産を取得するための金銭

を贈与した場合、最高2,000万円まで配偶者控除を受けられます。

さらに暦年課税の基礎控除110万円と合わせることで、最大2,110万円まで控除できる可能性があります。

ただし、この配偶者控除は自動的に適用されるものではなく、適用を受けるためには贈与税の申告が必要です。

例えば、

「夫単独名義の自宅を妻にも持たせたい」

「老後を考えて、自宅を妻名義にしておきたい」

という場合には検討対象になります。

ただし、夫婦なら何でも2,000万円まで非課税になるわけではありません。

婚姻期間や不動産の用途など、制度を利用するための条件があります。

また、同じ配偶者との間では原則として一度しか利用できません。

「贈与税が0円」でも不動産贈与が無料になるわけではない

ここが不動産贈与で非常に大切なポイントです。

例えば配偶者控除や相続時精算課税を利用して、

贈与税が0円になった。

すると、

「じゃあ、タダで名義変更できるんだ」

と思ってしまいそうです。

しかし、そうではありません。

不動産を贈与すると、贈与税とは別に、

  • 登録免許税
  • 不動産取得税
  • 司法書士へ登記を依頼する場合の報酬

などが問題になります。

贈与税0円 = 不動産を移す費用0円、ではありません。

不動産の名義変更にかかる税金全体については、

不動産名義変更でかかる税金一覧

でも解説しています。

贈与と相続では登録免許税にも差がある

登記の面でも、贈与と相続にはかなり大きな違いがあります。

一般的な所有権移転登記では、

相続:固定資産評価額 × 0.4%

贈与:固定資産評価額 × 2%

が基本です。

例えば、登録免許税の課税価格が1,000万円の不動産なら、単純計算では、

  • 相続:4万円
  • 贈与:20万円

となります。

同じ不動産を取得する場合でも、登記原因が相続か贈与かで登録免許税に5倍の差が出ることがあります。

さらに、贈与の場合には不動産取得税が問題になることもあります。

そのため、

「贈与税の特例が使えるから贈与しよう!」

と贈与税だけ見て決めるのはおすすめできません。

「贈与税0円なら贈与」が正解とは限らない

例えば、父が自宅を息子へ渡したいとします。

相続時精算課税を利用すれば、贈与時の贈与税をかなり抑えられるケースがあります。

しかし、だからといって生前贈与が必ず得とは限りません。

比較したいのは、

  • 贈与税
  • 登録免許税
  • 不動産取得税
  • 司法書士費用などの手続費用
  • 将来の相続税

です。

場合によっては、「今贈与するより、相続まで待った方が税金・登記費用は安かった」ということも十分あり得ます。

ここまで聞くと、

「じゃあ、税金が安い相続まで待てばいいじゃないか」

と思うかもしれません。

ところが、不動産の承継は費用だけでは決められません。

贈与と相続は「費用」だけでは比較できない

税金や登記費用だけを比較すると、相続まで待った方が有利なケースは少なくありません。

しかし、生前贈与には相続にはない大きな特徴があります。

それが、

「所有者が元気なうちに、渡す相手と合意して実際に名義を移せる」

ことです。

例えば、父が、

「この自宅は長男に渡したい」

と考えているとします。

父が所有者で、長男も受け取ることに合意しているのであれば、生前贈与によって父の生前に長男へ所有権を移すことができます。

生前贈与なら、父と長男という当事者間で決めて、今のうちに実行できます。

これは、生前贈与の大きな特徴です。

相続まで待つと「他の相続人との話し合い」が必要になることも

では、生前贈与せず、そのまま父が亡くなった場合はどうでしょう。

例えば、

  • 長男
  • 次男

が相続人だったとします。

父が生前、

「この家は長男にあげるつもりだ」

と言っていただけでは、当然に長男単独名義になるわけではありません。

遺言などがなく長男が自宅を単独取得するのであれば、通常は遺産分割協議を行い、他の共同相続人との合意が必要になります。

そこで、

母:「私はこの家を売って現金で分けたい」

次男:「兄だけが家をもらうのは納得できない」

となったらどうでしょう。

父の希望どおりに長男が取得できるとは限りません。

もちろん、相続開始後には法定相続分による相続登記など別の方法もあります。

しかし、特定の相続人だけの単独名義にしたいのであれば、遺言等がない限り、遺産分割の問題を避けられないことがあります。

ここは生前贈与と相続の大きな違いです。

「20万円高いから贈与しない」で本当にいい?

例えば、生前贈与にすると、相続より登録免許税などの負担が20万円高くなるケースがあったとします。

数字だけを見れば、

「20万円も高いなら相続まで待とう」

となるでしょう。

しかし、その20万円を節約した結果、将来の相続で兄弟間の話し合いがまとまらず、希望していた人が不動産を取得できなかったとしたらどうでしょう。

不動産の承継では、

  • 税金が安いこと
  • 誰に渡したいのか
  • いつ渡したいのか
  • その人に確実に渡したいのか

まで考える必要があります。

生前贈与には、「今、当事者の意思で不動産の承継を確定できる」という、費用だけでは測れないメリットがあります。

生前贈与だけでなく「遺言」という選択肢もある

ただし、

「長男に確実に渡したいなら、今すぐ贈与するしかない」

というわけでもありません。

もうひとつ有力なのが遺言です。

例えば、

「自宅は将来長男に渡したい。でも、自分が生きている間は自分名義のままにしておきたい」

という場合。

このケースでは、生前贈与より遺言の方が希望に合う可能性があります。

希望 主な選択肢
今すぐ所有権を渡したい 生前贈与
亡くなった後の取得者を決めておきたい 遺言
相続人で話し合って決めてもらいたい 相続後の遺産分割

「贈与か相続か」の二択ではありません。

不動産を誰に引き継がせるかを考えるときは、遺言も含めて比較すると選択肢が広がります。

不動産を贈与する前に比較したい3つの方法

親から子へ不動産を渡したい場合、少なくとも次の3つは比較したいところです。

① 今、不動産全部を贈与する

メリットは、所有者が元気なうちに名義変更を完了できることです。

誰に渡すのかを今の段階で確定できます。

一方、贈与税、登録免許税、不動産取得税などの負担を確認する必要があります。

② 持分だけ贈与する

不動産全部ではなく、2分の1、10分の1など、一部の持分だけを贈与する方法です。

一度に全部を移すより贈与財産の価額を抑えられる可能性があります。

ただし、共有不動産になるため、将来の売却や管理では共有者間の調整が必要になることがあります。

税金を減らすためだけに安易に共有状態を作るのはおすすめできません。

③ 贈与せず相続まで待つ

税金や登記費用の面では有利になることがあります。

ただし、遺言などを作成しなければ、将来の遺産分割で他の相続人との調整が必要になる可能性があります。

「どれが一番税金が安いか」だけでなく、「家族として何を実現したいのか」で比較することが重要です。

「贈与だけど売買にする」はダメ

贈与税が高いと知って、

「だったら贈与ではなく、売買したことにすればいいのでは?」

と考える方もいるかもしれません。

しかし、実際には代金を支払っていないのに、書類上だけ売買にするのはおすすめできません。

また、極端に安い価格で親から子へ売却する場合も、時価との差額について贈与と判断される問題があります。

一方で、実際に適正な売買代金を支払って親子間売買をすること自体は可能です。

詳しくは、

贈与なのに売買にした場合の税金

も参考にしてください。

贈与・売買・相続は、それぞれ法律関係も税金も違います。

「税金が安そうだから原因だけ変える」のではなく、実際の取引内容に合った方法を選びましょう。

不動産贈与では「登記してから税金に気付く」のが一番困る

司法書士として特に注意してほしいのが、これです。

登記を終えてから、贈与税の高さに気付く。

不動産の贈与登記自体は、必要な条件が整っていれば進められます。

しかし、

「登記できる」ことと、「その贈与が税金面でも適切だった」ことは別問題です。

例えば、

「親から子へ名義変更したい」

というご依頼を受け、贈与による所有権移転登記をした後になって、

「こんなに贈与税がかかるとは思わなかった」

となっては困ります。

だからこそ、不動産の贈与では登記する前の検討が重要です。

実際の贈与登記の手順については、

生前贈与による不動産名義変更の手順

で詳しく解説しています。

司法書士と税理士、どちらに相談する?

不動産贈与では、司法書士と税理士で役割が違います。

司法書士 税理士
贈与契約書
所有権移転登記
登記に必要な書類
登録免許税
名義変更手続
具体的な贈与税額
相続税との比較
税制選択の税務判断
贈与税等の申告

司法書士としては、

「この登記はできます。でも、登記する前に税理士へ確認した方がいいですよ」

とお伝えすることもあります。

これは決して珍しいことではありません。

むしろ、不動産の価額が大きい場合には、登記と税金を分けて考えないことが大切です。

自分の場合、どの贈与方法が合っている?

親子間の贈与、夫婦間の贈与、持分だけの贈与など、状況によって必要な手続やおすすめのプランは変わります。
いくつかの質問に答えるだけで、手続内容や費用の目安を確認できます。


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まとめ|贈与税を安くするだけでなく「なぜ今、贈与するのか」を考えよう

不動産の生前贈与では、

  • 年間110万円の基礎控除
  • 相続時精算課税
  • 夫婦間の配偶者控除

などを利用することで、贈与税の負担を抑えられる可能性があります。

特に相続時精算課税は2024年から年間110万円の基礎控除が新設され、以前とは制度内容が大きく変わっています。

ただし、「贈与税が安くなったから贈与する」という判断だけでは不十分です。

不動産の贈与では、

  • 贈与税
  • 登録免許税
  • 不動産取得税
  • 登記費用
  • 将来の相続税

まで確認したいところです。

そして、それ以上に考えてほしいのが、

「誰に不動産を渡したいのか」

です。

相続まで待てば費用を抑えられるケースでも、遺言などがなければ、将来の遺産分割で他の相続人との調整が必要になることがあります。

一方、生前贈与なら、所有者が元気なうちに、贈る人と受け取る人の意思で名義変更を実行できます。

税金が多少高くても、今のうちに承継先を確定させること自体に意味があるケースもあります。

反対に、今すぐ名義を変える必要がないのであれば、遺言を作成して将来の承継先を決めておく方法もあります。

不動産の生前贈与を考えるときは、

「どうすれば贈与税が安くなる?」

だけでなく、

「そもそも今、贈与する必要がある?」

まで一度考えてみてください。

そこまで考えて初めて、自分や家族に合った不動産の引き継ぎ方が見えてきます。