自筆証書遺言を作成したあと、意外と困るのが「この遺言書をどこに置いておくか」という問題です。

自宅の引き出しや金庫に保管することもできますが、

  • 相続が起きたときに家族が見つけられない
  • 紛失してしまわないか心配
  • 誰かに書き換えられたり、捨てられたりしないだろうか

といった不安があります。

そこで利用できるのが、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」です。

作成した自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)へ預けておくことができ、原本と画像データが長期間保管されます。

さらに、この制度を利用して保管された遺言書は、相続開始後に家庭裁判所での検認が不要です。

自筆証書遺言を作成するのであれば、ぜひ知っておきたい制度です。

この記事で分かること

  • 自筆証書遺言書保管制度とは何か
  • 法務局に預けるメリット・デメリット
  • 家庭裁判所の検認が不要になる理由
  • 保管申請の費用・必要書類・手続の流れ
  • 相続開始後に家族が行う手続
  • 法務局で確認してもらえる範囲

この記事では、2026年時点の制度をもとに、自筆証書遺言書保管制度のメリット・注意点、費用、申請方法、相続開始後の手続まで分かりやすく解説します。

自筆証書遺言書保管制度とは?

自筆証書遺言書保管制度とは、自分で作成した自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)で保管してもらえる制度です。

2020年7月10日から始まりました。

従来の自筆証書遺言には、次のような「保管」の問題がありました。

  • 遺言書を紛失する
  • 家族に発見されない
  • 遺言書を破棄される
  • 改ざんされる

せっかく遺言書を作っても、相続開始後に見つからなければ、その内容を実現することが難しくなってしまいます。

法務局で保管してもらうことで、自宅保管による紛失・破棄・改ざんなどのリスクを大きく減らせます。

法務局ではどのくらいの期間保管される?

法務局では、遺言書の原本だけでなく画像データも保管されます。

保管されるもの 保管期間
遺言書の原本 遺言者の死亡後50年間
遺言書の画像データ 遺言者の死亡後150年間

「自分が亡くなったあと、遺言書がどこかへ行ってしまわないか」という心配をかなり減らせる制度といえるでしょう。

最大のメリットは家庭裁判所の「検認」が不要になること

自筆証書遺言書保管制度の大きなメリットの一つが、家庭裁判所での検認が不要になることです。

通常、自宅などで保管されていた自筆証書遺言については、相続開始後に家庭裁判所で検認の手続が必要になるのが原則です。

ところが、法務局の保管制度を利用していた自筆証書遺言については、この検認が不要です。

自宅などで保管した場合

遺言書を発見
↓
家庭裁判所へ検認を申し立てる
↓
検認後に相続手続へ

法務局で保管した場合

遺言書の情報を確認
↓
検認不要
↓
相続手続へ

相続人側から見ても、手続の負担を減らせる大きなメリットです。

メリット① 遺言書の紛失を防げる

自宅で保管していると、

「どこにしまったか分からなくなった」

「引っ越しのときに捨ててしまった」

ということもあり得ます。

法務局に預けておけば、遺言書そのものを紛失するリスクを大きく減らせます。

メリット② 改ざん・破棄のリスクを減らせる

遺言書の内容が、すべての相続人にとって都合のよい内容とは限りません。

例えば、

「自宅は長男に相続させる」
「預金の多くは長女に相続させる」

という遺言があれば、他の相続人にとって不満のある内容かもしれません。

自宅保管の場合、遺言書を発見した人が隠したり、破棄したりするリスクを完全には否定できません。

法務局で原本を保管してもらうことで、遺言書の改ざん・破棄などのリスクを抑えることができます。

メリット③ 相続人に遺言書の存在を知らせる仕組みがある

「法務局に預けても、家族がそのことを知らなかったら意味がないのでは?」と思う方もいるでしょう。

自筆証書遺言書保管制度には、遺言書の存在を相続人等へ知らせるための通知制度があります。

指定者通知

代表的なものが「指定者通知」です。

遺言者が保管申請の際に希望しておくと、法務局が遺言者の死亡を確認した際、あらかじめ指定した人へ遺言書が保管されている旨を通知してもらうことができます。

2026年時点では、通知対象として3名まで指定できます。

関係遺言書保管通知

また、遺言者の死亡後、相続人等の一人が遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書を閲覧したりすると、他の相続人等へ遺言書が保管されている旨を知らせる「関係遺言書保管通知」という仕組みもあります。

注意:法務局へ預ければ、死亡した瞬間に相続人全員へ自動的に遺言内容が送られる、という制度ではありません。通知制度の仕組みを理解して利用しましょう。

メリット④ 費用が比較的安い

自筆証書遺言の保管申請手数料は、遺言書1通につき3,900円です。

公正証書遺言のように、財産額などに応じて作成手数料が変わる仕組みではありません。

自分で自筆証書遺言を作成できる方にとっては、比較的利用しやすい金額といえるでしょう。

法務局に預ければ「遺言書の内容」もチェックしてもらえる?

ここは非常に重要です。

法務局では、自筆証書遺言の方式について外形的な確認が行われます。

例えば、

  • 全文が自書されているか
  • 日付があるか
  • 氏名があるか
  • 押印されているか

などの形式面です。

しかし、

  • この内容なら希望どおりに不動産を相続させられるか
  • 財産の指定方法に問題がないか
  • 遺留分について問題がないか
  • 家族関係を考えたとき、この遺言内容が適切か

といった遺言内容そのものについて、法務局が相談に応じてくれるわけではありません。

法務局で保管されたから「絶対に有効」とは限らない

これも勘違いしやすいところです。

法務局で保管されているからといって、その遺言書の内容について法的な有効性が保証されるわけではありません。

例えば、

  • 財産の特定が曖昧
  • 誰に何を相続させるのか分かりにくい
  • 遺言内容の解釈に問題がある
  • 遺留分について十分検討されていない

といった問題は、別途考える必要があります。

「法務局が預かってくれた=内容もすべて問題なし」ではありません。

自筆証書遺言書保管制度のデメリット・注意点

メリットの多い制度ですが、注意点もあります。

まず、法務局へ保管申請をするためには、制度で定められた様式に合わせて遺言書を作成する必要があります。

また、法務局は遺言内容そのものを考えてくれる場所ではありません。

さらに、自筆証書遺言である以上、遺言書本文については原則として遺言者本人が自書する必要があります。

「専門家に全部作ってもらって、最後に署名だけすればいい」というものではありません。

文字を書くこと自体が難しい方や、複雑な内容の遺言を作りたい方については、公正証書遺言を検討した方がよい場合もあります。

法務局へ提出する遺言書には様式上のルールがある

法務局へ保管する自筆証書遺言は、どのような用紙でも自由に提出できるわけではありません。

例えば、用紙の大きさや余白などについてルールがあります。

また、ホチキス留めをせず、封筒も不要です。

自宅保管用としてすでに遺言書を作成している方は、そのまま法務局へ持って行くのではなく、保管制度の様式を満たしているか確認しましょう。

財産目録はパソコンで作成できる

自筆証書遺言の本文は原則として本人が手書きする必要があります。

一方、財産目録については一定の要件を満たせば、

  • パソコンで作成する
  • 不動産の登記事項証明書を利用する
  • 通帳のコピーを利用する

といった方法が認められています。

不動産や預貯金が多い場合は、財産目録を活用すると遺言書を整理しやすくなります。

ただし、自書によらない財産目録には各ページへの署名・押印が必要です。

財産目録については、「自筆証書遺言の財産目録の書き方|パソコン作成・記載例・署名押印を解説【2026年版】」で詳しく解説しています。

どこの法務局でも預けられる?

遺言書の保管申請は、全国どこの法務局でも自由にできるわけではありません。

遺言書保管所として指定された法務局のうち、一定の管轄に基づいて申請先を選びます。

実際に利用するときは、法務省・法務局の案内で対象となる遺言書保管所を確認しておきましょう。

保管申請の基本的な流れ

大まかな流れは次のようになります。

  1. 自筆証書遺言を作成する
  2. 法務局の保管制度に対応した様式になっているか確認する
  3. 申請書などの必要書類を準備する
  4. 管轄する遺言書保管所を確認する
  5. 法務局の手続を予約する
  6. 遺言者本人が法務局へ行く
  7. 遺言書と必要書類を提出する
  8. 手数料を納付する
  9. 手続完了後、保管証を受け取る

ポイントは、保管申請は遺言者本人が行うということです。

「家族に代わりに持って行ってもらう」という手続ではありません。

保管申請に必要なもの

具体的なケースによって確認は必要ですが、基本的には次のものを準備します。

  • 作成した自筆証書遺言書
  • 保管申請書
  • 本籍及び戸籍の筆頭者の記載がある住民票の写し等
  • 本人確認書類
  • 手数料3,900円

申請する直前には、最新の法務局の案内で必要書類を確認しましょう。

予約してから法務局へ行く

自筆証書遺言書保管制度の手続は予約制です。

遺言書を作ったからといって、そのまま法務局へ持参するのではなく、申請先を確認して予約してから手続を進めます。

法務局手続案内予約サービスなどを利用して予約できます。

遺言書を預けた後に内容を変更したくなったら?

遺言書を作成したあとに、

  • 不動産を売却した
  • 預金口座を整理した
  • 家族関係が変わった
  • 相続させたい人が変わった

ということもあります。

遺言書は、一度作ったら絶対に変更できないものではありません。

ただし、法務局で保管している遺言書の内容を書き換えるというより、新たな遺言書を作成することなどを検討することになります。

財産や家族関係が大きく変わった場合は、以前作成した遺言書をそのままにせず、内容を見直しましょう。

相続が始まったら家族はどうする?

遺言者が亡くなった後、相続人等は法務局で、

  • 遺言書が保管されているか確認する
  • 遺言書情報証明書の交付を請求する
  • 遺言書を閲覧する

といった手続を行うことができます。

相続登記などの手続では、遺言書情報証明書を利用することがあります。

そして、法務局で保管されている自筆証書遺言については、家庭裁判所の検認を受ける必要がありません。

家族には「法務局に預けている」と伝えておいた方がいい?

通知制度はありますが、家族など信頼できる人に、

「自筆証書遺言を作って、法務局に預けている」

と伝えておくのも一つの方法です。

保管申請が完了すると「保管証」が交付されます。

遺言書そのものを自宅に置いておく必要はありませんが、家族が相続開始後にスムーズに動けるよう、遺言書を作成した事実や法務局へ預けていることをどのように伝えておくかも考えておきましょう。

自宅保管と法務局保管、どちらがいい?

自筆証書遺言そのものは、自宅で保管することもできます。

ただ、法務局保管には次のようなメリットがあります。

  • 紛失や改ざんのリスクを減らせる
  • 家庭裁判所の検認が不要
  • 通知制度がある
  • 原本と画像データが長期間保管される

特に「自筆証書遺言を作ったけれど、保管場所をどうしよう」と迷っている方にとっては、有力な選択肢です。

一方で、保管制度を利用したからといって、遺言内容そのものまで法務局が保証してくれるわけではありません。

この違いはしっかり理解しておきましょう。

自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらがいい?

ここまで読むと、

「それなら、自筆証書遺言を法務局に預ければ、公正証書遺言とほとんど同じなのでは?」

と思うかもしれません。

しかし、両者には違いがあります。

自筆証書遺言は、基本的に自分で内容を考えて自分で作成します。

一方、公正証書遺言は公証人が関与して作成します。

財産が多い、相続関係が複雑、相続人以外へ財産を渡したい、将来の争いが心配といったケースでは、公正証書遺言を検討した方がよい場合もあります。

「安いから自筆証書遺言」「安心だから公正証書遺言」と単純に決めるのではなく、家族関係や財産内容に応じて選ぶことが大切です。

法務局保管制度を利用する前のチェックポイント

  • 自筆証書遺言の法律上の要件を満たしているか
  • 法務局保管制度の様式に合っているか
  • 不動産を正確に特定できているか
  • 預貯金や有価証券の指定が明確か
  • 誰に何を相続させるのか分かるか
  • その他の財産についても指定しているか
  • 遺留分について検討したか
  • 遺言執行者を指定する必要はないか
  • 財産目録の署名・押印に漏れがないか
  • 家族に遺言書の存在をどのように伝えるか

法務局へ持って行く前に、「形式」と「内容」を分けてチェックすることがポイントです。

まとめ|法務局に預ける前に「遺言の中身」をしっかり作ろう

自筆証書遺言書保管制度は、自筆証書遺言の弱点だった「保管」の問題を大きく改善してくれる便利な制度です。

法務局で原本と画像データを長期間保管してもらうことができ、相続開始後の家庭裁判所による検認も不要になります。

手数料も3,900円ですので、自筆証書遺言を作成する方にとって利用を検討する価値のある制度です。

ただし、一番大切なのは「法務局に預けること」そのものではありません。

本当に大切なのは、相続が発生したときに、自分の希望を実現できる遺言書になっていることです。

法務局では遺言書の形式面を確認してもらえますが、「誰にどの財産を相続させるべきか」「この書き方で相続登記できるか」「遺留分に問題はないか」といった遺言内容そのものを考えてくれるわけではありません。

司法書士法人あやめ池事務所では、自筆証書遺言の作成サポートを行っています。

不動産・預貯金・有価証券などの財産を整理し、実際の相続手続まで見据えながら遺言内容を検討したうえで、自筆証書遺言の作成をサポートします。

「自分で遺言を書きたい。でも、内容がこれでいいのかは確認してほしい」という方は、自筆証書遺言書保管制度を利用する前の段階からお気軽にご相談ください。

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