自筆証書遺言を作るとき、意外と難しいのが「財産をどう書けばよいのか」という点です。

「自宅は長男に、預金は長女に相続させたい」――希望自体はシンプルでも、遺言書では、どの不動産なのか、どの銀行口座なのか、誰が取得するのかが分かるように記載する必要があります。

特に不動産は、普段使っている住所と登記上の表示が異なることがあります。また、預貯金や株式は、遺言書を作成した後に残高や保有内容が変わることもあります。

この記事で分かること

  • 自筆証書遺言で財産を指定するときの基本
  • 土地・建物の記載例
  • マンションの記載例
  • 預貯金・株式・投資信託の記載例
  • 不動産・預金・有価証券を含む遺言書全体のサンプル

自筆証書遺言そのものの作成方法から確認したい方は、自筆証書遺言の書き方【2026年版】からご覧ください。

自筆証書遺言では「誰に」「何を」を明確にする

まず押さえておきたいのは、遺言書を読んだ人が、「誰が、どの財産を取得するのか」を判断できるようにしておくことです。

例えば、次のような遺言を考えてみましょう。

「自宅を長男に相続させる。」

家族の間では「自宅」がどこを指しているのか分かるかもしれません。しかし、実際に相続登記をする場面では、その記載から対象となる土地・建物を特定できるかが問題になります。

遺言書は家族へのメッセージであると同時に、相続開始後の不動産登記や預貯金の解約・名義変更などで使用する重要な書類です。

「家族なら分かるだろう」ではなく、第三者が見ても対象となる財産を確認できる書き方を意識しましょう。

不動産を指定する場合の書き方

不動産を相続させる場合は、登記事項証明書に記載されている情報を確認して記載するのが基本です。

土地であれば、主に次の情報を確認します。

  • 所在
  • 地番
  • 地目
  • 地積

建物であれば、主に次の情報を確認します。

  • 所在
  • 家屋番号
  • 種類
  • 構造
  • 床面積

ここで注意したいのが、普段使っている「住所」と、不動産登記上の「地番」「家屋番号」は同じとは限らないという点です。

土地・建物の記載例

遺言者は、次の土地及び建物を長男山田一郎に相続させる。

【土地】
所在 奈良市あやめ池南一丁目
地番 100番1
地目 宅地
地積 150.00平方メートル

【建物】
所在 奈良市あやめ池南一丁目100番地1
家屋番号 100番1
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階60.00平方メートル
    2階45.00平方メートル

このように記載しておけば、どの土地・建物を対象としているのか確認しやすくなります。

「自宅の土地建物を長男に相続させる」ではダメ?

このような記載だからといって、必ず遺言が無効になるというわけではありません。

遺言書全体の内容や遺言者が所有している不動産の状況などから、対象となる不動産を特定できる場合もあります。

ただ、わざわざ曖昧な書き方をするメリットはありません。

相続が発生した後に「この遺言で相続登記できるのか」「自宅とは、この土地も含んでいるのか」といった問題が生じないよう、作成時点で登記事項証明書を確認しておくのがおすすめです。

マンションの場合はどう書く?

マンションも、基本的には登記事項証明書に記載されている情報をもとに特定します。

ただし、マンションは一戸建てとは登記上の表示方法が異なり、一般的には次のような情報が記載されています。

  • 一棟の建物の表示
  • 専有部分の建物の表示
  • 敷地権の表示

普段は「○○マンション101号室」と呼んでいても、それだけで登記上の不動産を正確に特定できるとは限りません。

マンションの記載例

遺言者は、次の区分所有建物を長男山田一郎に相続させる。

【一棟の建物の表示】
所在 奈良市あやめ池南一丁目100番地1
建物の名称 あやめ池マンション

【専有部分の建物の表示】
家屋番号 あやめ池南一丁目100番1の101
建物の名称 101号
種類 居宅
構造 鉄筋コンクリート造1階建
床面積 1階部分70.00平方メートル

【敷地権の表示】
土地の符号 1
所在及び地番 奈良市あやめ池南一丁目100番1
地目 宅地
地積 1,500.00平方メートル
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 100000分の7000

※上記は記載方法を説明するための架空の例です。実際には、対象となるマンションの登記事項証明書を確認して、その表示に合わせて記載します。

特に注意したいのが「敷地権」です。マンションでは専有部分である部屋だけでなく、その部屋と一体となっている土地の権利があります。

マンション名と部屋番号だけで済ませず、登記事項証明書を確認してから作成しましょう。

預貯金を指定する場合の書き方

預貯金を特定する場合は、一般的に次の情報を記載します。

  • 金融機関名
  • 支店名
  • 預金の種類
  • 口座番号

預貯金の記載例

遺言者は、○○銀行奈良支店の普通預金(口座番号1234567)を長女山田花子に相続させる。

これなら、どの預金口座を長女に取得させるのかが分かります。

預金残高まで書いた方がいい?

特定の預金口座そのものを相続させたいのであれば、通常は残高まで記載する必要はありません。

例えば、遺言書を作った時点で預金残高が500万円あっても、5年後には300万円になっているかもしれません。反対に700万円に増えている可能性もあります。

預金残高は変動するものです。

特定の口座をそのまま取得させたいのであれば、金額を書くのではなく、金融機関名・支店名・預金種類・口座番号などによって口座を特定する方法が分かりやすいでしょう。

銀行口座をまとめて指定する方法もある

預金口座が複数ある場合は、例えば、

遺言者は、○○銀行奈良支店に有する遺言者名義の預貯金のすべてを長女山田花子に相続させる。

などと指定する方法も考えられます。

ただし、「預金全部」「金融資産全部」といった表現を使う場合は、どこまでの財産を含めるのかを考えておく必要があります。

普通預金だけなのか、定期預金も含むのか。同じ銀行の別支店の口座も含むのか。遺言者の希望に合う表現を選びましょう。

株式・投資信託を指定する場合の書き方

株式や投資信託については、証券会社の口座を基準に指定する方法があります。

有価証券の記載例

遺言者は、○○証券株式会社奈良支店の遺言者名義の証券口座(口座番号123456)において保有する株式、投資信託その他一切の有価証券を長男山田一郎に相続させる。

もちろん「株式会社○○の株式100株」など、銘柄と数量を指定する方法もあります。

ただし、株式や投資信託は売買によって内容が変わりやすい財産です。

個別の銘柄を指定するのか、証券口座を基準に指定するのかは、今後の売買予定なども考えて決めるとよいでしょう。

財産目録を使うと本文をスッキリできる

不動産や預貯金が多い場合、すべてを遺言書本文に書くと非常に長くなります。

そこで便利なのが財産目録です。

遺言者は、別紙財産目録1記載の不動産を長男山田一郎に相続させる。

このように本文へ記載し、別紙の財産目録に土地・建物の詳しい情報を記載する方法があります。

自筆証書遺言の財産目録は、一定の要件を満たせばパソコンで作成することもできます。

財産目録の詳しい作成方法については、前の記事「自筆証書遺言の財産目録の書き方|パソコン作成・記載例・署名押印を解説【2026年版】」もあわせてご覧ください。

「その他すべての財産」も忘れず検討する

遺言書を作るときに意外と重要なのが、個別に指定しなかった財産をどうするかです。

例えば、次のような財産が後から見つかったり、遺言作成後に増えたりすることがあります。

  • 後から開設した預金口座
  • 遺言書作成後に購入した株式
  • 存在を忘れていた預金
  • 還付金や未収金
  • 遺言書作成後に取得した財産

そこで、例えば次のような条項を設ける方法があります。

遺言者は、本遺言書に記載した財産を除くその他一切の財産を長女山田花子に相続させる。

いわゆる「その他財産」「残余財産」についての指定です。

目立つ財産だけではなく、書き漏らした財産を誰が取得するのかまで検討しておきましょう。

借金についても確認しておく

遺言書では預金や不動産などのプラスの財産に目が向きがちですが、住宅ローンやその他の債務が残っている場合は注意が必要です。

「この不動産は長男、この預金は長女」と指定すれば、借金についても自由に相続人への負担割合を決められる、という単純な話ではありません。

債務については債権者との関係もあるため、プラスの財産と同じようには考えられません。

借入れが多い場合や事業上の債務がある場合は、専門家へ相談しながら遺言内容を検討することをおすすめします。

完成形を確認|不動産・預貯金・有価証券を含む遺言書サンプル

ここまで、不動産・預貯金・有価証券を個別に見てきました。

では、これらを一つの自筆証書遺言にまとめると、どのような形になるのでしょうか。

ここでは、「自宅は長男に、預金と証券口座は長女に、それ以外の財産も長女に相続させる」ケースを例にします。

遺言書

遺言者山田太郎は、次のとおり遺言する。

第1条

遺言者は、次の土地及び建物を長男山田一郎(昭和○年○月○日生)に相続させる。

【土地】
所在 奈良市あやめ池南一丁目
地番 100番1
地目 宅地
地積 150.00平方メートル

【建物】
所在 奈良市あやめ池南一丁目100番地1
家屋番号 100番1
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階60.00平方メートル
    2階45.00平方メートル

第2条

遺言者は、次の預貯金を長女山田花子(昭和○年○月○日生)に相続させる。

○○銀行 奈良支店
普通預金 口座番号1234567

△△銀行 学園前支店
普通預金 口座番号7654321

第3条

遺言者は、○○証券株式会社奈良支店の遺言者名義の証券口座(口座番号123456)において保有する株式、投資信託その他一切の有価証券を、長女山田花子に相続させる。

第4条

遺言者は、前各条に記載した財産を除く遺言者所有のその他一切の財産を、長女山田花子に相続させる。

第5条

遺言者は、本遺言の遺言執行者として、長男山田一郎を指定する。

令和○年○月○日

奈良市○○町○番○号

遺言者 山田太郎 印

注意:上記は自筆証書遺言の構成を理解するための架空のサンプルです。そのまま書き写せばすべてのケースに対応できるものではありません。実際には、家族関係、財産内容、遺留分などを確認して作成してください。

サンプル遺言のポイント

この例では、第1条で不動産を長男、第2条で預貯金を長女、第3条で証券口座内の有価証券を長女に相続させています。

そして、特に確認してほしいのが第4条の「その他一切の財産」です。

遺言書を作成するときに把握していなかった財産や、作成後に取得した財産などが残る可能性があります。そのため、個別に記載していない財産を誰に取得させるのかも検討しています。

また、第5条では遺言執行者を指定しています。

遺言執行者を必ず指定しなければならないわけではありませんが、遺言内容によっては、あらかじめ指定しておくことで相続開始後の手続きを進めやすくなる場合があります。

財産を細かく指定しすぎることにも注意

財産を正確に特定することは重要です。

ただし、細かく書けば書くほどよいわけではありません。

例えば、株式の銘柄・数量・評価額まで細かく書いても、数年後には保有状況が大きく変わっている可能性があります。預金残高も同じです。

遺言書を作成するときは、「現在の財産を正確に書く」だけではなく、「数年後に財産が変わったときにも対応できるか」という視点も持っておきましょう。

こんな書き方は注意

例えば、次のような表現です。

  • 「自宅を長男に相続させる」
  • 「預金を長女に相続させる」
  • 「株は長男に渡す」
  • 「残った財産は家族で分ける」

家族には意味が通じても、相続手続を行う金融機関や法務局などの第三者が同じように理解してくれるとは限りません。

「どの財産なのか」「誰が取得するのか」「どこまでを対象としているのか」が曖昧になっていないか確認しましょう。

遺言書を作った後に財産が変わったら?

遺言書を作成した後に、不動産を売却したり、銀行口座を解約したりすることは珍しくありません。

次のような変化があったときは、遺言書を見直すタイミングです。

  • 不動産を売却した
  • 新しい不動産を購入した
  • 銀行口座を大きく整理した
  • 証券会社を変更した
  • 相続させる予定だった人が先に亡くなった
  • 家族関係が変わった

遺言書は一度作成したら一生そのままでよいとは限りません。財産や家族関係が大きく変わったときは、内容を確認しましょう。

司法書士へ相談した方がよいケース

次のような場合は、自分だけで文章を考えるより、作成前に司法書士などの専門家へ相談することをおすすめします。

  • 不動産が複数ある
  • 共有不動産がある
  • 賃貸物件や事業用不動産がある
  • 株式や投資信託が多い
  • 相続人ごとに細かく財産を分けたい
  • 相続人以外の人にも財産を渡したい
  • 遺留分が気になる
  • 事業を承継させたい
  • 借入れがある
  • 遺言執行者を指定したい

遺言書は「文章として意味が分かる」だけではなく、相続開始後に実際の登記や金融機関の手続で使える内容になっていることが重要です。

形式面でどのような場合に問題になるのか確認したい方は、自筆証書遺言が無効になるケースもあわせてご確認ください。

まとめ

自筆証書遺言で不動産・預貯金・株式などを指定するときは、「誰に何を取得させるのか」が明確に分かるように記載することが基本です。

不動産は登記事項証明書、預貯金は通帳など、実際の資料を確認しながら記載しましょう。

一方で、財産を細かく指定しすぎると、遺言書作成後の売却や口座変更などに対応しにくくなることがあります。

現在の財産を正確に特定することと、将来財産が変化する可能性の両方を考えて作成することがポイントです。

また、主要な財産だけでなく、「その他一切の財産を誰に相続させるか」まで検討しておくと、財産の書き漏れにも対応しやすくなります。

遺言書は「書くこと」が目的ではありません。相続が発生したときに、遺された家族が迷わず手続きを進められる内容にしておくことが大切です。

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