自筆証書遺言を作成するとき、「財産目録もすべて手書きしなければならないのか」と迷う方は少なくありません。
現在の制度では、遺言書に添付する財産目録については、パソコンで作成することや、通帳・登記事項証明書などのコピーを利用することが認められています。家族や司法書士など、遺言者本人以外の人が作成することも可能です。
ただし、自書によらない財産目録には、各ページへの署名・押印が必要です。作り方を誤ると、財産を特定できなかったり、遺言の有効性をめぐる問題につながったりする可能性があります。
この記事で分かること
- 財産目録を作成する目的
- パソコンや通帳コピーを利用する方法
- 署名・押印が必要な範囲
- 不動産・預貯金・株式の記載例
- 作成後に見直すべきポイント
自筆証書遺言全体の作成方法や法律上の要件を先に確認したい方は、自筆証書遺言の書き方・必要な要件・注意点もあわせてご覧ください。
自筆証書遺言の財産目録とは?
財産目録とは、遺言の対象となる不動産、預貯金、株式などを一覧にした書類です。
遺言書本文と財産目録は、次のように役割が異なります。
| 書類 | 主な役割 |
|---|---|
| 遺言書本文 | 誰に、どの財産を相続させるか、または遺贈するかを示す |
| 財産目録 | 遺言の対象となる財産を客観的に特定する |
例えば、遺言書本文に「別紙財産目録1記載の不動産を長男に相続させる」と記載し、財産目録に所在・地番・家屋番号などを記載します。
本文だけで財産を正確に特定しようとすると記載量が増え、書き間違いも起こりやすくなります。財産目録を分けて作成することで、本文を整理しやすくなる点がメリットです。
財産目録は必ず作成しなければならない?
財産目録は、自筆証書遺言を作成する際に必ず添付しなければならない書類ではありません。
財産が少なく、本文中の記載だけで対象を明確に特定できる場合は、財産目録を作成しない方法もあります。
例:遺言者は、遺言者名義の○○銀行○○支店の普通預金(口座番号1234567)を、長男○○に相続させる。
一方、次のような場合は財産目録を作成した方が整理しやすいでしょう。
- 不動産を複数所有している
- 複数の金融機関に預貯金がある
- 株式や投資信託などがある
- 取得する人ごとに財産を分けたい
- 本文を簡潔にして書き間違いを減らしたい
財産目録はパソコンで作成できる
自筆証書遺言の本文、作成日、氏名は、原則として遺言者本人が手書きしなければなりません。
これに対して、遺言書に添付する財産目録は、パソコンで作成できます。表計算ソフトや文書作成ソフトを使用して、財産の種類ごとに整理しても差し支えありません。
ただし、パソコンで作成できるのは財産目録であり、誰に財産を取得させるかという遺言内容までパソコンで作成できるわけではありません。
本文をパソコンで作成した場合など、無効になり得る典型例については、自筆証書遺言が無効になるケースで詳しく解説しています。
家族や司法書士が財産目録を作成してもよい?
財産目録は、遺言者本人以外の人が作成することも認められています。
そのため、パソコン操作が難しい場合には、家族に入力を依頼したり、司法書士などの専門家に作成を依頼したりすることができます。
ただし、作成を他人に任せた場合でも、財産目録の内容を確認し、各ページに署名・押印するのは遺言者本人です。本人が内容を理解しないまま署名することは避けなければなりません。
登記事項証明書や通帳のコピーも使用できる
財産目録は、一覧表の形式に限られません。次のような資料のコピーを財産目録として添付する方法もあります。
- 不動産の登記事項証明書
- 固定資産税の課税明細書
- 預貯金通帳
- 証券会社の残高報告書
- 保険証券
資料をそのまま利用できるため、財産情報を書き写す際の誤記を減らしやすい方法です。
ただし、不要な取引履歴や他人の情報まで含まれている場合があります。どの財産を示す資料なのかが分かるページを選び、遺言書と一体の書類として扱うことが重要です。
通帳はどのページをコピーする?
通帳のコピーを財産目録として使用する場合は、少なくとも次の情報を確認できるページを用意します。
- 金融機関名
- 支店名
- 預金の種類
- 口座番号
- 口座名義
通常は、表紙だけでは支店名や口座番号まで確認できないため、表紙と見開きの口座情報ページをあわせてコピーします。
残高は作成後も変動するため、特定の口座そのものを対象とするのであれば、必ずしも残高を記載する必要はありません。残高を記載する場合は、いつの時点の金額なのかを明確にしておきましょう。
不動産は登記事項証明書で確認する
不動産を財産目録に記載する際は、住所ではなく、登記事項証明書に記載された情報を使用します。
土地であれば所在・地番・地目・地積、建物であれば所在・家屋番号・種類・構造・床面積などを確認します。
注意:普段使っている住所と、登記上の所在・地番・家屋番号は異なることがあります。固定資産税の通知書だけで判断せず、最新の登記事項証明書で確認すると安心です。
預貯金の記載例
財産目録1 預貯金
○○銀行 奈良支店
普通預金 口座番号1234567
口座名義 ヤマダ タロウ
金融機関名や支店名が変更されていることもあるため、最新の通帳やインターネットバンキングの契約情報などで確認します。
株式・投資信託の記載例
財産目録2 有価証券
○○証券株式会社 奈良支店
口座番号 123456
同口座で保有する株式、投資信託その他一切の有価証券
個別の銘柄や数量を記載すると、売買や分配によって内容が変わるたびに見直しが必要になる場合があります。どの範囲の資産を誰に取得させたいのかに応じて、記載方法を検討します。
財産目録の記載例
パソコンで作成する場合の一例は、次のとおりです。
財産目録
1 土地
所在 奈良市あやめ池南一丁目
地番 100番1
地目 宅地
地積 150.00平方メートル
2 建物
所在 奈良市あやめ池南一丁目100番地1
家屋番号 100番1
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階60.00平方メートル、2階45.00平方メートル
3 預貯金
○○銀行 奈良支店
普通預金 口座番号1234567
口座名義 ヤマダ タロウ
4 有価証券
○○証券株式会社 奈良支店
口座番号123456で管理されている株式、投資信託その他一切の有価証券
令和○年○月○日
住所 奈良市○○町○番○号
遺言者 山田太郎 印
これは一般的な記載例です。実際には、遺言書本文との対応関係や、財産の内容に応じて調整する必要があります。
財産目録には日付が必要?
自筆証書遺言の作成日は、遺言書本文に自書する必要があります。一方、財産目録については、本文と同じように日付を自書することが必須とされているわけではありません。
ただし、本文と財産目録の関係を明確にし、後日の差し替えを疑われにくくするために、財産目録にも作成日や通し番号を付けておく方法があります。
自書しない財産目録は各ページに署名・押印が必要
パソコンで作成した財産目録や、通帳・登記事項証明書などのコピーを添付する場合は、財産目録の各ページに遺言者本人が署名し、押印しなければなりません。
複数ページある場合に、最後のページだけ署名・押印すればよいわけではありません。1ページ目、2ページ目というように、すべてのページを確認します。
両面印刷の場合は両面に署名・押印する
1枚の用紙の両面に財産目録を印刷した場合は、両面がそれぞれ1ページとして扱われます。そのため、表面と裏面の双方に署名・押印が必要です。
署名・押印はどこにする?
署名・押印の場所に一律の指定はありませんが、記載内容に重ならず、どのページに対する署名・押印かが分かる余白部分に行います。
通帳や登記事項証明書のコピーを使用する場合も同様です。コピーの余白に署名・押印できるよう、印刷時の配置を調整しておくとよいでしょう。
署名・押印漏れのほか、日付や訂正方法などの形式面も確認したい方は、自筆証書遺言が無効になるケースと訂正方法をご確認ください。
財産目録と遺言書本文を別々に保管しない
財産目録は、遺言書本文と対応して初めて意味を持つ書類です。本文と別の場所に保管すると、相続開始後に一方しか見つからないおそれがあります。
ホチキス留めや契印は法律上の必須要件ではありませんが、本文と財産目録に通し番号を付け、一緒に封筒へ入れるなど、一体の書類であることが分かる状態で保管しましょう。
法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は、用紙の大きさや余白などの様式上の条件もあります。制度の利用を予定している場合は、作成前に法務局の案内を確認することが大切です。
財産目録は作成後も見直す
遺言書を作成した後に、預金口座の解約、不動産の売却、株式の購入などによって財産内容が変わることがあります。
財産目録に記載した財産が存在しなくなっていたり、口座情報が変わっていたりすると、遺言者の希望どおりに手続きを進められない可能性があります。
遺言書は一度作って終わりではありません。財産や家族関係に変化があったときは、本文と財産目録をあわせて見直しましょう。
財産目録の作成チェックリスト
- 遺言書本文と財産目録の対応関係が明確になっている
- 不動産は登記事項証明書の情報で特定している
- 預貯金は金融機関名・支店名・種類・口座番号を確認している
- パソコン作成やコピーの財産目録には各ページに署名・押印している
- 両面印刷の場合は両面に署名・押印している
- 本文と財産目録を一緒に保管している
- 財産内容の変化に応じて定期的に見直している
司法書士へ相談した方がよいケース
次のような場合は、作成前に司法書士などの専門家へ相談することをおすすめします。
- 不動産が複数ある
- 共有名義の不動産がある
- 会社経営や事業用財産がある
- 相続人以外の人へ財産を渡したい
- 相続人ごとに取得する財産を細かく指定したい
- 遺留分をめぐる争いが心配である
- 自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらにするか迷っている
財産目録が形式上整っていても、本文との対応が曖昧であれば、相続手続で財産を特定できないことがあります。形式だけでなく、実際に登記や預金解約へ使用できる内容になっているかまで確認することが重要です。
まとめ
自筆証書遺言の財産目録は、パソコンで作成することができ、通帳や登記事項証明書などのコピーを利用することも可能です。家族や司法書士など、本人以外の人が作成しても差し支えありません。
一方、自書によらない財産目録には、各ページへの署名・押印が必要です。不動産や預貯金を正確に特定し、遺言書本文との関係が分かるように作成・保管しなければなりません。
自筆証書遺言の全体像を確認したい方は、自筆証書遺言の書き方【2026年版】もご覧ください。



