※この記事は、2026年8月に内容を見直し、離婚時の持ち家の評価方法、住宅ローン残高を踏まえた考え方、査定額が異なる場合の対応などを加筆・修正しています。
目次
財産分与では、まず「持ち家をいくらと考えるか」を決める
離婚に伴って財産分与をするとき、持ち家がある場合には、まずその家をいくらの財産として考えるのかを決める必要があります。
預貯金であれば、通帳を確認すれば残高が分かります。
たとえば預金が1,000万円なら、基本的には「1,000万円の財産がある」と考えればよいので、それほど難しくありません。
ところが、不動産はそう簡単ではありません。
同じ家でも、
- 固定資産税評価額
- 不動産会社の査定額
- 不動産鑑定士による鑑定額
- 実際に売却できる価格
など、いくつもの金額が存在するからです。
しかも、財産分与では必ずこの評価額を使わなければならない、という一律のルールがあるわけではありません。
協議離婚であれば、夫婦で話し合い、どの金額を基準にするかを決めていくことになります。
そのため、
「固定資産税評価額が2,000万円だから、家の価値も2,000万円ですよね?」
「不動産会社から3,500万円と言われたけど、この金額で財産分与しないといけない?」
という質問に対して、単純にYES・NOで答えることはできません。
まずは、どのような評価方法があるのかを知っておきましょう。
離婚時の住宅ローンと持ち家の処理方法そのものを先に整理したい方は、
離婚時の住宅ローンと持ち家の名義|パターン別3つの処理方法
も参考にしてください。
持ち家には複数の「評価額」がある
固定資産税評価額
固定資産税評価額は、市区町村が固定資産税などを計算するために設定している価格です。
毎年送られてくる固定資産税の課税明細書などで確認できます。
比較的簡単に確認できるうえ、自治体が決めた客観的な数字なので、夫婦間の話し合いで基準の一つとして利用することがあります。
ただし、注意したいのは、固定資産税評価額=実際に売れる価格ではないということです。
たとえば、
固定資産税評価額 2,000万円
不動産会社の査定額 3,000万円
ということもあります。
したがって、「実際の市場価値を基準に財産分与したい」という場合には、固定資産税評価額だけで判断するのではなく、不動産会社の査定なども確認した方がよいでしょう。
固定資産税評価額の確認方法については、
[ネットで簡単]固定資産税評価額の調べ方
で詳しく解説しています。
不動産会社の査定額
不動産会社に査定を依頼すると、周辺の取引事例や物件の状態、市場動向などを踏まえて、「このくらいで売却できるのではないか」という査定額を提示してもらえます。
実際の市場価格に近い数字を把握したい場合には、非常に参考になります。
特に、
「家を妻が取得する代わりに、夫へ金銭を支払う」
といった財産分与をする場合には、現在の市場価値を把握するための資料として利用しやすいでしょう。
ただし、不動産会社の査定額も絶対的な正解ではありません。
不動産会社によって査定額が異なることは珍しくありません。
不動産鑑定士の鑑定額
不動産鑑定士に依頼して、不動産の価値を専門的に評価してもらう方法です。
不動産会社の無料査定とは異なり、専門家が鑑定評価を行うため費用がかかります。
そのため、夫婦間である程度話し合いができているケースで、いきなり不動産鑑定を行う必要は通常ありません。
一方、
「夫は3,000万円と言っている」
「妻は4,000万円と言っている」
「どちらも譲らない」
という状態になれば、第三者による専門的な評価が必要になることがあります。
調停や訴訟など、裁判所が関与するケースでも検討される方法です。
実際の売却価格
もっとも分かりやすいのが、実際に家を売却してしまう方法です。
たとえば家が3,200万円で売れたのであれば、「実際に3,200万円で売れた」という事実が残ります。
査定額のように、
「3,000万円だ」
「いや、3,500万円だ」
と議論する必要がありません。
持ち家を売却して現金化し、そのお金を夫婦で分ける場合には、評価額をめぐる争いは比較的起こりにくくなります。
ただし、売却に伴う諸費用や住宅ローン残高も考える必要があります。
結局、財産分与ではどの評価額を使えばいい?
ここが一番気になるところだと思います。
協議離婚の場合、基本的には夫婦が納得できる金額を探すことになります。
たとえば夫婦双方が、
「固定資産税評価額を基準にしよう」
と納得しているのであれば、それを基礎として話し合うことも考えられます。
一方、
「家は売らずに妻が取得する。ただし夫にも公平に財産を分けたい」
というのであれば、不動産会社の査定などを利用して、市場価値を確認する方法が考えられます。
大切なのは、「どの評価方法が絶対に正しいか」ではなく、何のために家を評価するのかです。
- 売却するのか
- 妻が住み続けるのか
- 夫が取得するのか
- 住宅ローンが残っているのか
- 他に預貯金などの財産がどの程度あるのか
こうした事情によって、適した考え方は変わります。
夫と妻で不動産会社の査定額が違ったら?
実務では、ここで話が止まることがあります。
たとえば、
夫が依頼した不動産会社 → 査定額3,500万円
妻が依頼した不動産会社 → 査定額4,200万円
となったとします。
700万円も違えば、財産分与額にも大きな影響が出ます。
「どちらの査定が正しいんですか?」
と聞きたくなるところですが、必ずしもどちらかが間違っているわけではありません。
不動産査定は、売却時期や周辺の取引事例、建物の評価方法などによって差が出ることがあります。
まずは複数の査定を比較する
1社だけの査定額で決めるのではなく、複数社に査定を依頼する方法があります。
たとえば、
A社 3,500万円
B社 3,700万円
C社 3,650万円
なら、おおよその市場価値も見えてきます。
査定額だけを見るのではなく、なぜその価格になったのかという査定根拠も確認することが大切です。
中間的な金額で合意する方法もある
協議離婚であれば、最終的には夫婦の合意です。
たとえば夫が3,500万円、妻が3,900万円を主張しているのであれば、
「では3,700万円として計算しよう」
と合意することもできます。
離婚は不動産だけを分ける手続ではありません。
預貯金、生命保険、有価証券、自動車、養育費など、さまざまな事項をまとめて話し合います。
家の評価額だけを1円単位まで争うより、財産分与全体で落としどころを探した方がスムーズなケースもあります。
どうしても合意できないのであれば、不動産鑑定や調停などを検討することになります。
専門家の相談先について迷っている方は、
持ち家がある離婚は誰に相談する?専門家の違いを比較
も参考にしてください。
住宅ローンが残っている家はどう考える?
ここは非常に重要です。
離婚時に、
「家の査定額が3,000万円だったから、3,000万円を夫婦で分ければいい」
とは限りません。
住宅ローンが2,000万円残っていれば、その負担も考えなければならないからです。
例:家3,000万円・住宅ローン2,000万円
かなり単純化して考えると、
家の査定額 3,000万円
住宅ローン残高 2,000万円
実質的な価値の目安 1,000万円
という考え方になります。
仮に、この1,000万円を夫婦で2分の1ずつ分けるという話になれば、500万円ずつという考え方が出てきます。
ただし、これはあくまで分かりやすく単純化した例です。
実際には、頭金の出し方、婚姻前から所有していた財産、住宅ローンの負担状況、他の共有財産なども関係します。
アンダーローンとは
住宅の価値が住宅ローン残高を上回っている状態です。
家 3,000万円
住宅ローン 2,000万円
なら、売却すればローンを返済しても資金が残る可能性があります。
このような状態を一般にアンダーローンといいます。
オーバーローンとは
逆に、
家の査定額 2,000万円
住宅ローン 2,500万円
なら、単純計算では500万円のマイナスです。
家を売却しても住宅ローンを完済できない可能性があります。
これがオーバーローンです。
オーバーローンの場合は、「家を半分ずつ分ければいい」という単純な話ではなくなります。
誰が住宅ローンを負担するのか、誰が家に住むのか、金融機関が名義変更や債務者変更を認めるのかなども含めて考える必要があります。
住宅ローンが残る場合の代表的な処理方法は、
離婚時の住宅ローンと家の名義|パターン別3つの処理方法
で整理しています。
妻が家をもらう場合、夫にいくら払えばいい?
これも非常に多い疑問です。
たとえば、
家の査定額 3,000万円
住宅ローン残高 2,000万円
で、妻が家を取得するとします。
「3,000万円の家を妻がもらうなら、夫に1,500万円払うのでしょうか?」
とは限りません。
先ほどのように、住宅ローンを考慮すれば、家の実質的な価値を1,000万円と考える場面もあります。
さらに、
預貯金 600万円
自動車 200万円
有価証券 400万円
など、ほかにも夫婦の財産があれば、それらも含めて財産分与を考えます。
「家の評価額=相手へ支払う金額」ではありません。
家を含めた夫婦の財産全体を確認して、誰が何を取得するのかを整理したうえで、必要に応じて金銭で調整します。
たとえば、
妻 → 持ち家を取得
夫 → 預貯金を多めに取得
という形でバランスを取ることもできます。
「家を妻名義にするから、とりあえず家の価格の半分を夫に払う」
と先に決めてしまわず、財産全体を一度並べてみることが大切です。
持ち家を売却するなら話は比較的シンプル
どちらも家に住み続ける予定がないのであれば、売却して精算する方法があります。
たとえば、
売却価格 3,500万円
住宅ローン残高 2,000万円
売却に必要な諸費用 200万円
残額 1,300万円
なら、この残った資金を、その他の財産なども考慮しながら分けることになります。
実際に売却してしまえば「家はいくらなのか」という問題に一定の答えが出るため、評価額をめぐる争いは少なくなります。
ただし、売却する場合にも、
- いつ売るのか
- 売れるまで住宅ローンを誰が払うのか
- 最低いくらなら売却に応じるのか
- 売却費用を誰が負担するのか
- 売却後の残額をどのように分けるのか
などは、事前に決めておいた方がよいでしょう。
子どもが家に住み続ける場合は「数字だけ」で決めない選択肢も
離婚に伴う財産分与では、公平性はもちろん大切です。
しかし、持ち家には「生活の場所」という側面もあります。
たとえば妻と子どもが現在の家に住み続けることで、
- 転校しなくて済む
- 生活環境を変えなくて済む
- 実家や親族のサポートを受けやすい
という事情があるかもしれません。
このような場合には、
「家をいくらと評価するか」
だけに固執すると、なかなか話がまとまらないことがあります。
もちろん、一方だけが著しく不利益になる内容は慎重に検討する必要があります。
一方で、協議離婚で双方が納得できるのであれば、預貯金、住宅ローン、養育費なども含めて、全体として調整する方法もあります。
離婚の目的は「家を正確に値付けすること」ではなく、離婚後の生活を含めた条件を整理することです。
評価額で揉めている場合と、合意できている場合では相談先も違う
「夫は3,000万円と言っている」
「妻は4,000万円と言っている」
「財産分与の割合についてもまったく合意できない」
という状態であれば、すでに当事者間だけで解決することが難しくなっている可能性があります。
このような場合には、弁護士へ相談して、必要に応じて離婚調停などを検討することになります。
一方、
「家は妻が取得する」
「住宅ローンについても銀行と話ができている」
「夫へ支払う金額についても、おおむね合意できている」
という段階まで進んでいるのであれば、次に必要なのは合意内容を書面にして、実際の名義変更まで完了させることです。
揉めている段階では弁護士、話がまとまった後の書面・不動産登記では司法書士という形で、専門家を使い分ける方法もあります。
専門家の役割やリレーパターンについては、
持ち家がある離婚は誰に相談する?専門家の違いを比較
で詳しく解説しています。
持ち家の評価額だけ決めて安心しない
持ち家の評価額が決まると、
「これで家の問題は解決した」
と思ってしまうことがあります。
しかし、実際にはその後の手続が重要です。
たとえば妻が家を取得するのであれば、
- 財産分与の内容を離婚協議書にする
- 住宅ローンについて金融機関と調整する
- 離婚届を提出する
- 財産分与による名義変更登記をする
といった作業が必要になることがあります。
特に住宅ローンが残っている場合には、夫婦だけで「家は妻のもの」と決めても、それだけで住宅ローンの債務者や不動産の登記名義が自動的に変わるわけではありません。
話し合いの内容を、実際の手続まで落とし込む必要があります。
離婚協議書については、
離婚協議書は私文書?公正証書?両者の違い
をご覧ください。
今すぐ名義変更できない場合にも注意
住宅ローンが残っているため、銀行から、
「住宅ローンを完済してから名義変更してください」
と言われるケースもあります。
この場合、
「じゃあ今は何もできない」
と考えて、そのまま離婚してしまうのは注意が必要です。
たとえば妻が今後20年間住宅ローンを実質的に負担し、完済したときに妻名義へ変更する予定だったとします。
しかし20年後、元夫から、
「やっぱり家を売ろう。売却代金の半分をほしい」
と言われる可能性もあります。
「今すぐ名義変更できない」ことと、「今できる対策が何もない」ことは別です。
将来の名義変更を離婚協議書で明確にし、ケースによっては条件付所有権移転仮登記などを検討することもあります。
詳しくは、
住宅ローン完済を条件とした所有権移転仮登記とは?
をご覧ください。
まとめ|「正しい評価額」を探すより、夫婦が納得できる基準を探す
離婚時の持ち家の評価では、
「結局、どの評価額が正しいの?」
という疑問を持つ方が多いと思います。
しかし、協議離婚で重要なのは、唯一絶対の価格を探し出すことではありません。
固定資産税評価額、不動産会社の査定額、不動産鑑定士の鑑定額など、それぞれの数字の意味を理解したうえで、夫婦が財産分与の基準として納得できる金額を決めることが大切です。
そして、住宅ローンが残っているなら、家の評価額だけを見るのではなく、ローン残高を含めて考えなければなりません。
さらに、子どもの生活、預貯金などのその他の財産、今後の住宅ローン負担なども含めて考える必要があります。
評価額で争いが大きくなれば、弁護士や不動産鑑定士などの力が必要になることもあります。
反対に、夫婦で話し合いができているのであれば、必要以上に複雑にする必要はありません。
- 家をどう評価するか
- 誰が家を取得するか
- 住宅ローンをどうするか
- 相手への精算をどうするか
- 名義変更をどうするか
この5つをセットで整理して、離婚後に問題を残さない形まで仕上げることが大切です。



