自筆証書遺言は、公証役場を利用せず、自分で作成できる遺言書です。

しかし、書かれている内容から本人の意思が分かったとしても、法律上の形式を満たしていなければ、遺言書が無効になる可能性があります。

このような自筆証書遺言は注意が必要です

  • 本文をパソコンで作成している
  • 家族が本文を代筆している
  • 作成日が書かれていない
  • 「令和8年8月吉日」と記載している
  • 遺言者本人の署名がない
  • 押印されていない
  • 訂正方法を間違えている
  • 夫婦が同じ用紙に共同で遺言している
  • パソコンで作成した財産目録に署名・押印がない

また、形式上は有効でも、財産や取得者の記載が曖昧で、相続手続を進められないことがあります。

この記事では、自筆証書遺言が無効になる主なケースと、作成時に確認しておきたいポイントを司法書士が解説します。

自筆証書遺言には厳格な形式が定められている

遺言書は、作成した本人が亡くなった後に効力が問題になる書類です。本人が亡くなった後では、記載の意味や本当の希望を確認できません。

そのため、自筆証書遺言には、本人の最終的な意思であることを確認するため、法律上の形式が定められています。

  1. 遺言書の本文を遺言者本人が自書する
  2. 作成した年月日を遺言者本人が自書する
  3. 遺言者本人が氏名を自書する
  4. 遺言書に押印する
  5. 訂正・追加・削除を決められた方法で行う
  6. 2人以上で共同の遺言書を作成しない

財産目録については、自書によらない方法で作成できます。ただし、その場合も署名・押印などの要件があります。

本文をパソコンで作成すると無効になる可能性がある

自筆証書遺言の本文は、遺言者本人が手書きしなければなりません。

  • パソコンで本文を作成して印刷する
  • 家族に本文を入力してもらう
  • 印刷されたひな形の空欄だけを手書きする
  • 専門家が作成した文案を印刷して署名・押印する
  • 家族が本文を代筆し、本人が最後に署名する

たとえば、パソコンで「私は、所有するすべての財産を長男に相続させる」と作成し、本人が末尾に署名・押印しても、本文が自書されていないため問題があります。

遺言書の内容をパソコンで下書きすること自体は問題ありません。まず原案を作成し、相続人、財産、遺留分などを確認したうえで、最終的な本文を本人が手書きします。

司法書士に原案作成を依頼し、確認済みの文章を本人が清書する方法もあります。

家族による代筆も避ける必要がある

遺言者が高齢であったり、手が震えたりするため、家族が代わりに本文を書きたいというケースがあります。

しかし、自筆証書遺言は、遺言者本人が自書する遺言書です。家族が本人の希望を聞いて本文を書き、本人が署名・押印しても、本文を自書したことにはなりません。

本人の手を家族が強く支えて文字を書かせた場合も、どこまで本人が自分の意思で筆記したのかが問題になる可能性があります。

本人が文章を理解できても、身体的な事情によって自書が難しい場合は、無理に自筆証書遺言を選ばず、公正証書遺言を検討した方がよいでしょう。

作成日がない遺言書は無効になる可能性がある

自筆証書遺言には、遺言者本人が作成日を自書しなければなりません。

令和8年8月30日

日付は、単に作成時期を記録するためだけのものではありません。

  • 遺言書作成時の遺言能力を確認する
  • 複数の遺言書が見つかった場合の前後関係を確認する
  • 家族関係や財産状況を作成時点で確認する
  • 後から書き加えられたものではないかを確認する

実務上は、本文の清書、内容確認、署名、押印を行い、遺言書として完成させた日を明確に記載するのが安全です。

「令和8年8月吉日」という日付は避ける

「令和8年8月吉日」では、8月の何日に作成したのかを特定できません。

適切な記載例
令和8年8月30日
避けたい記載例
令和8年8月吉日
令和8年8月ごろ
令和8年のお正月

遺言者や家族には日付が分かる表現でも、第三者が客観的に特定できるとは限りません。あえて判断が分かれる表現を使わず、年月日を正確に記載しましょう。

遺言者本人の署名がない場合

自筆証書遺言には、遺言者本人が氏名を自書する必要があります。一般的には、戸籍上の氏名を省略せずに記載するのが安全です。

通称や名字だけの署名でも本人を特定できるとして有効性が認められる余地はありますが、本人の死亡後に、本人の署名ではない、同姓の別人ではないか、家族が書いたのではないかと争われる可能性があります。

戸籍上の氏名を正確に自書し、遺言者を特定しやすくするため、住所も併記することをおすすめします。

押印がない場合

自筆証書遺言には、遺言者本人による押印が必要です。本文、日付、氏名がすべて本人の手書きでも、押印がなければ形式上の問題が生じます。

必ずしも実印である必要はなく、認印でも、それだけを理由に直ちに無効になるわけではありません。

もっとも、本人が作成したものか後から争われる可能性を考え、重要な財産について遺言する場合や、取得額に大きな差がある場合には、実印を使用し、作成時の印鑑登録証明書と一緒に保管する方法も検討されます。

複数ページの遺言書に契印がないと無効になる?

契印がないからといって、直ちに遺言書全体が無効になるとは限りません。しかし、契印やページ番号がないと、一部欠落や差し替えを疑われる可能性があります。

  • ページ番号を記載する
  • 「全3ページのうち1ページ」のように全体枚数を示す
  • 各ページを一緒につづる
  • ページの境目に契印する
  • 同じ筆記具と用紙で作成する

法律上の最低限の要件だけでなく、遺言書が一体の書類であることを確認できる形にしておくことが大切です。

訂正方法を間違えるとどうなる?

一般的な書類と同じ感覚で、間違えた部分に二重線を引き、訂正印を押すだけでは、遺言書の変更方法として不十分な可能性があります。

訂正・追加・削除で必要になる基本的な対応

  • 変更する場所を示す
  • 変更した旨を付記する
  • 付記部分に署名する
  • 変更した場所に押印する

訂正方法が適切でない場合、訂正部分の効力が認められない可能性があります。

書き間違いをした場合は、無理に訂正せず、可能であれば遺言書全体を書き直す方が安全です。

夫婦で一つの遺言書を作成することはできない

2人以上が同じ書面で共同して遺言することはできません。たとえ夫婦の意思が一致していても、夫婦連名の遺言書は避ける必要があります。

  • 夫は夫の遺言書を作成する
  • 妻は妻の遺言書を作成する
  • それぞれが自分の本文、日付、氏名を自書する
  • それぞれが自分の遺言書に押印する

また、配偶者が先に亡くなっていた場合に備え、次に財産を取得する人を定める予備的遺言も検討しましょう。

財産目録に署名・押印がない場合

財産目録は、一定の要件を満たせば、パソコンで作成できます。登記事項証明書、預金通帳、証券会社の残高報告書などのコピーを利用する方法もあります。

ただし、自書によらない財産目録を添付する場合には、遺言者本人が財産目録の各ページに署名・押印しなければなりません。用紙の両面を使用している場合は、両面への署名・押印が必要です。

署名・押印のない財産目録があっても、遺言書全体が一律に無効になるとは限りません。しかし、財産目録自体が無効となり、対象財産を特定できず、遺言内容を実現できない可能性があります。

「遺言書全体が無効か」だけでなく、財産目録に記載した財産について、実際に手続を進められるかが重要です。

関連する解説:自筆証書遺言の財産目録の作り方|パソコン・通帳コピーは使える?

認知症があると自筆証書遺言は無効になる?

認知症と診断されていることだけで、直ちに遺言書が無効になるわけではありません。

問題になるのは、遺言書を作成した時点で、遺言内容とその結果を理解する能力があったかどうかです。

  • 遺言書作成時の認知機能
  • 遺言内容の複雑さ
  • 財産の種類や金額
  • 相続人との関係
  • 遺言内容が大きく変更された理由
  • 医師の診断やカルテ
  • 作成前後の会話や生活状況
  • 遺言書作成に関与した人
  • 本人の筆跡や文章能力

遺言能力は個別事情によって判断されます。高齢になってから作成する場合や、相続人ごとの取得額に大きな差を設ける場合には、公正証書遺言や、作成時の診断書・面談記録を残すことも検討します。

内容が曖昧でも遺言書自体は有効な場合がある

形式上の「無効」と、遺言内容を実現できないことは、分けて考える必要があります。

「自宅は妻に、預金は長男に相続させる」

家族には意味が分かっても、第三者から見ると、自宅がどの土地・建物か、私道持分や車庫を含むか、預金はどの口座か、その他の財産を誰が取得するかが明確ではありません。

このような遺言書は、直ちに全文が無効になるとは限りません。しかし、対象財産を特定できず、相続人間の協議や追加資料が必要になる可能性があります。

「遺言書として有効か」と「遺言書だけで相続手続を実行できるか」は別の問題です。

検認を受けても有効性が保証されるわけではない

自宅などで発見された自筆証書遺言は、原則として、家庭裁判所の検認を受けます。

検認では、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など、検認時点の遺言書の状態を明確にします。

検認は、遺言書が有効か無効かを判断する手続ではありません。

したがって、家庭裁判所で検認を受けたからといって、その遺言書が間違いなく有効になるわけではありません。検認後に、筆跡、遺言能力、形式不備などを理由に有効性を争われることもあります。

関連する解説:自筆証書遺言の検認とは?必要なケース・申立ての流れ・開封時の注意点

自筆証書遺言を作成するときの確認項目

  • 本文を遺言者本人がすべて手書きしたか
  • パソコンで作成した部分は財産目録だけか
  • 作成日を年月日まで正確に自書したか
  • 「吉日」など日を特定できない表現になっていないか
  • 遺言者本人が氏名を自書し、押印したか
  • 訂正方法に問題がないか
  • 夫婦連名の遺言書になっていないか
  • 財産目録の各ページに署名・押印したか
  • 不動産、預貯金、証券口座を特定できているか
  • 記載していない財産の承継先を決めたか
  • 財産を取得する人が先に亡くなった場合を想定したか
  • 遺留分や遺言執行者を検討したか
  • 作成後の保管方法を決めたか

司法書士へ相談した方がよいケース

  • 遺言書を一人で書けるか不安がある
  • 書き間違いや訂正箇所がある
  • 複数の不動産、私道持分、共有持分、未登記建物がある
  • 預貯金や証券口座が多い
  • 相続人以外へ財産を渡したい
  • 前婚の子どもがいる、または子どものいない夫婦
  • 一部の相続人に財産を集中させたい
  • 遺留分や相続人同士の関係に不安がある
  • 認知機能の低下を指摘されている
  • 自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらがよいか迷っている

自筆証書遺言は、自分で作成できる遺言書ですが、専門家に相談してはいけない遺言書ではありません。司法書士が原案を作成し、最終的な本文を本人が自書する方法もあります。

まとめ

自筆証書遺言は、形式を間違えると無効になる可能性があります。

  • 本文を本人が自書する
  • 作成日を年月日まで正確に自書する
  • 本人が氏名を自書して押印する
  • 訂正・追加・削除を正しい方法で行う
  • 夫婦で一つの遺言書を作成しない
  • 自書しない財産目録の各ページに署名・押印する

また、形式上有効でも、財産の記載が曖昧であれば、相続登記や預貯金の手続を進められない可能性があります。

自筆証書遺言では、単に無効にならないことだけでなく、相続開始後に内容を実現できることが重要です。

司法書士法人あやめ池事務所では、家族関係や財産内容を確認したうえで、自筆証書遺言の原案作成、不動産の調査、財産目録の作成、法務局の保管制度の利用などをサポートしています。

「この書き方で有効なのか」「自分で作成できる内容なのか」と迷った場合は、清書する前の段階からご相談いただけます。